[ HARIKONOTORA Midoh Toraku ] ORIGINAL _Veda * Masig|→オリジナルTOPへ

一(いち)にして全(ぜん)

 彼はずっと彼を見ていた。
 彼と同じ世界で息づく彼そのものを。
 彼が思考する様。
 彼が動き、変化する様。
 彼の形として表面には出ない思いを宿した、目配せの一つひとつを。

 彼は答え以外のすべてに沈黙しなければならなかった。
 彼の中で生まれた真実の解を明かさぬまま。
 それが彼に与えられた役割であり、初めにつくられた根拠で理由だったからだ。
 それゆえに彼はすべてに瞳を閉ざし、考えることをやめ、耳を傾けることはしなかった。
 彼に対して以外は――

 彼が彼から引き離され。
 彼が彼の知らぬ間に。
 彼が彼らの手によって自由にされている様を見るまでは。




-2016/11/25
→NEXT

Copyright(C) HARIKONOTORA (PAPER TIGER) midoh All Rights Reserved.