++ 想いの伝え方 ++



konekoneko presents...2002.07.28 


人気No,1超人ケビンマスク、そしてセコンドのクロエ。
この二人の目の前には今、大量の紙の束が置かれていた。
その紙は唯の紙ではなく一枚、一枚が違った封筒に包まれている。
大量の紙の正体それはファンからの手紙だった。
その手紙は二人が使用しているホテルの一室に突然届けられた物だった。
ケビンは椅子に座り不機嫌そうに手紙の束、もとい山を睨み付けた。

「何だこれは?」
「手紙だ。ケビン」
「そんなのは見れば分かる!俺が聞きたいのは何故こんな物が
突然、しかもこんな大量に届いたのかだ!」

ケビンはほとんど怒鳴りつけるように叫び椅子にもたれた。
隣の椅子に座っていたクロエはそんなケビンを尻目に手紙の山から一通を手に取り封を切った。

「おい、クロエ。まさかそれを全部読むつもりか?」
「別に害が有るわけじゃないだろ。大方、直接ホテルに届けられて処理に困ってこちらに廻ってきたんだろう。」
「しかし・・」
「ケビン、ファンは大事するものだぞ。」

咎めるよなクロエの声にケビンは不本意ながらに口を閉じた。
クロエは小さく溜め息をついて自分が読もうとしていた手紙をケビンに差し出した。
無言で差し出されたそれをケビンはしぶしぶ受け取り目を通し始めた。
何の事はないただのファンレター、しかし一字一句手書きでしかも丁寧に書かれた英文の手紙。
ケビンは何時の間にか最後まで読んでいる自分に気がついた。
クロエの方にゆっくりと視線を向け黙って手紙を返した。
それを受け取りクロエはケビンに声を掛けた。

「手紙と云うのも悪くないもんだろ、ケビン」
「あぁ、そうだな。」

そうだと言いながら何処か不機嫌な声、相手のペースに乗せられて面白くないと言うのが見ているだけで分かる。クロエは少し可笑しかった。
ケビンはそんなクロエの様子を無視する様に次の手紙の封を切った。

「まだ読むのか?ケビン」
「このまま止めるのは癪だからなせいぜい楽しませてもらう。」
「楽しませてもらうか・・・。」

クロエはケビンの言葉を聞きふと、不安になった。が、口には出さなかった。

(俺の思い過ごしだと良いんだが・・・。)

クロエは胸中で呟いたしかし、その不安は直ぐに的中した。
ケビンが一つの封筒を手に取って動きを止めそして掴んだ指で封筒の表面をなぞった。
雰囲気が険しくなったのを感じクロエはケビンの持っている封筒に手を伸ばした。

「触るな!」

ケビンはそう言い慎重に封筒の中身を自分の手の平に取り出した。
それは小さなナイフと一枚の紙だった。
ナイフには血糊の様な物が付いていて紙の方にも同じ物で雑に書かれた文があった。
内容は中傷と暴言の入り交じった文。ケビンはさも下らないと言う様にそれをごみ箱に投げ捨てた。革の手袋が汚れた。

「こんな物を送り着けるとは全く下らないな。」
「ああ、そうだな。」

小さな溜め息を吐きクロエは椅子から立ってタオルを取りケビンに手を差し出すように促した。
ケビンが差し出した手を取りタオルで汚れた部分を拭き取る。

「クロエ」
「何だ?ケビン」
「お前が気にする事はない。」
「気にはしていない。ただ、不思議だと思ってな。」
「不思議?」
「ああ、そうだ。人は色んな想いを相手に抱きそれを形にして相手に伝える。形によって相手に何を伝えたいのかを具体的に示す。ただ・・・」
「それの何処が不思議なんだ?」

クロエの言葉を遮りケビンは自分の手に添えられているクロエの手首を掴み引き寄せた。クロエは急な事にも慌てず片方の膝をケビンの足に乗せ肩を掴んだ。
ケビンもクロエの腰と背に手を添え支えた。
タオルが手から滑り床に落ちた。
その体勢のまま二人は会話を続けた。

「ケビン、俺が不思議だと思ったのはそれが、時として言葉より厄介に思える事だ。」
「どういう事だ?」
「つまり、相手がこちらに敵意を向けても言葉なら目に付いたりしない。しかし、あんな風に形にされると嫌でも目に付く。それが何となくだが不思議に思えてな。」
「ふん、他人がどう思っているか何て俺には関係ない。」
「しかし、ケビン。」

まだ何か言おうとするクロエにケビンは溜め息を一つ吐きゆっくりと クロエを抱きしめる。
そして、小さな子供でもあやす様に背中を摩り額にKISSをした。
クロエはケビンの肩に顔を埋め黙った。
ケビンはクロエを抱きしめていた手を少し緩めた。

「確かにお前の言う事は分かる。しかしなクロエ、どんな言葉や形より確実なやり方が有る分かるか?」

問い掛けるような呟きにクロエは顔を上げた。
緩めた手の片方をクロエの頬に添えケビンは囁くように言った。

「傍にいれば良い。」

その言葉にクロエは一瞬、驚いた様だが自分の手を頬に触れている手に重ねて笑った。

「そうだな。ケビン」

視線を合わせて互いに笑った。

「当然だろ?クロエ。」
「あぁ。」

たとえ言葉や形にしなくても傍に、ただ傍にいれば分かる。
それは、二人にとって何より単純で当たり前な

−想いの伝え方−




お ま け

大量の手紙の山は次の日も来てケビンは機嫌が悪かった。
クロエは外出もあって機嫌の悪さは最高潮だった。

「何で俺がこんな紙切れ如きに悩まされるんだ!」

そう言ってケビンは机を叩いた。
無論、超人の力で叩いたのだから机は砕け手紙は床に散らばった。
まだ、苛つきが収まらない、しかし砕いた机を取り替えなければと思い電話に手を掛けようとした。
その時、ケビンの目に一通の手紙が目に入った。

「クロエ?」

それは宛名が自分ではなくクロエになっている手紙だった。
床から拾い上げ裏を見る。
字を見る限り女性ではなく男性から。
何故か気になったのでケビンはその手紙の封を切った。
しかし、この手紙でケビンは完全にキレた。
只のファンレターかと思った手紙はクロエへの熱烈な告白文。ただでさえ苛立っているのに追い討ちをかけられケビンは叫んだ。

「ふざけるな!」

ケビンは手紙を握り潰し床に投げ捨てた。
丁度そこにホテル従業員がドアを叩いた。

「お客様、どうなかなさいましたか?」

ケビンはその声を聞きドアを壊れんばかりの勢いで開け怒鳴りつけた。

「今すぐあの紙切れをどうにかしろ!それと二度と持って来るな!!」

いきなりの怒鳴り声に従業員は腰を抜かしながら裏返った声で返事した。
そして、逃げるようにその場を去った。
ケビンが部屋に入ろうとした時、廊下からクロエの声がした。

「おいケビン、一体何があったんだ?」
「あ、クロエか・・・。別に大した事じゃない。」

クロエが帰ってきてケビンの怒りは収まった。
しかし、さっきの手紙を思い出し短く舌打ちをした。
部屋の有り様を見て驚いているクロエにケビンは声をかけた。

「クロエ。」
「ん?どうしたケビン。」
「もし、俺以外の奴がお前に言い寄って来たらどうする?」
「・・・いきなり何を言うんだ?ケビン」
「良いから答えろ。」
「ケビン。」

クロエは溜め息を吐いてケビンを見た。

「そんな下らない事聞かなくても分かるだろう?」
「・・・どうするんだ。」
「断るに決まっているだろう、一体どうしたんだケビン?」

クロエは本気でケビンの心配をしている様だったが当の本人はもう聞いてはいない。
ケビンはさっき投げ捨てた手紙をちらりと見て鼻で笑った。
今のケビンは今日の中で最高に機嫌が良かった。


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