もう、何ていうか居たたまれなかった〜。
私はすっごく嬉しかったけどな?
し、幸せでガス…。ガ〜スガスガスガスガス(泣)。
やいと様っ、ありがとうございます〜〜!!!
「……………………」
三者三様というか、四ナビ四様。
後半の二人は、まるで示し合わせたかのように、口を開くなり一斉に泣き出す始末だ。
妙に照れくさいような至福のような顔をして、インターネットシティの一角で屯っている。時間を合わせて久しぶりに集まった面々を、ブルースは無感動な面体で眺めていた。
何かあったのか、とこちらから問わなくとも、恐らくピンクのナビ、ロール辺りが勝手に事情を説明してくれるからだ。
「やだ、もう。みんな、涙脆いんだから…」
笑いながらも、もらい泣きとばかりに目尻に涙を溜めつつ、一人傍観者となった赤いナビの元へ近寄った。案の定、気を回してくれるのは女独特の習性であるようだ。
「ああ、ごめんね、ブルース。今日学校であったことで、みんな感極まっちゃってるの」
「…………何があった」
さして興味もない内容だが、それなりに一致団結をしたこともあるメンバーが、普段よりおかしな行動を取っていれば気にもなる。
生憎、涙するなどという芸当とは無縁のプログラムを組まれている手前、感情が昂ぶるという挙動自体、理解することは困難だが。
「熱斗君の学校で、ナビへ日ごろの感謝を作文にしなさいっていう宿題の発表があってさ…」
「…なるほど」
皆まで言わなくとも、それだけの補足で大方の予想はついたとばかりに、ブルースは片手を腰の位置に当てたまま嘆息した。
昔はどうだったかまでは知らないが、ナビがオペレーターである人間をサポートするのが当たり前の時代だ。人が必要とするだろう総合的なツールを任されているのだから、オペレーティングシステムそのものだと混同されても不都合はないかもしれない。
無論、厳密には処理を行うシステムと、サポート的な役割でそれらを使いこなす手助けをするナビとでは、受け持つ役割そのものが異なっている。しかし、素人の目から見れば、その機械を居場所にして、使い方を懇切丁寧に教えてくれるのであれば、同一視されても無理はないだろう。
勿論、インストールされたアプリケーションを補佐したり、修正する役目も担っている。しかし、常識一般に関しても高度な知識を持っていることから、人の生活全般に関わるのが日常茶飯事だった。
もはやPETは一家に一台どころか、家族全員が持っているのが通念だ。その使用法や、彼らが人間の生活にどのように関わってきたかという経緯を教える授業もある。むしろ今では、普通の学問と一緒に、PETと呼ばれる携帯端末の操作を学んでいると言うべきだろう。
「それで、感激しているというわけか…」
下らん、と、以前であれば一言で一蹴してしまえたが、何度か助けられた過去がある以上、粗雑に扱うこともできない。
これまで他とは一線を画し、孤高を保ってきたはずが、ナビ同士の連帯感がそこはかとなくおのれの身に付いたといえば、これも学習能力の成せる業なのだろうか。
「僕は、ひたすら恥ずかしかったよ」
あれが二人きりの時でも対処に困るけれど、クラス全員の前での発表は心臓に悪いと、あるはずのない臓器を例えに持ち出して心境を語る。
「あの調子だと、パパやママのいる前でも読み上げそうで……」
居たたまれない、を連呼するロックマンは、真っ赤になって胸のナビマークを片手で握り締めている。
光家が全員集まるといえば、夕食時だ。絶対に逃げられるわけがないじゃないかと、半ば絶望したように頭を抱える様を横目に、ブルースはもう一度両腕を組み直した。
「やはり、通う学校が違うと、授業の内容もそれぞれ異なるのか…」
誰に聞かせるともなく吐き出された呟きを拾って、ロールが首を傾げた。
「炎山のところでは、そういう授業はないの?」
感想文を書かせるとか、宿題を先生の前で読み上げるとか。
「炎山様の通っている場所は、そんな低レベルな次元ではない」
国内でもトップクラスの進学校に在籍しているとはいえ、副社長を兼任しているため、多忙のあまりほとんど講師から教えを受ける機会もないのが現状だ。
それでも全学年中、常に上位の成績を修めているのは、並々ならぬ日々の努力の賜物だ。
炎山は、間違っても天才ではない。もし少年に天賦の才があるのだとすれば、素質そのものではなく、それらを伸長させる才能だろう。
「じゃあ、ブルースは炎山から、『いつもありがとう』って言われたことがないんだ」
感心したような、同情するようなロールの声に、何で憐れまれなければならないのかと、赤いナビは一瞬憮然とした。
→きみに、おくる2
-2006/09/09