喉奥から歪な音がする。
聞き慣れない、咽頭が収縮し、固形に当たってはくぐもる音色だ。
何度も鼻で呼吸を繰り返しながら、巨大と表する以外、他に形容の仕様がない肉を頬張る様は、見下ろす側にとっては嗜虐的としか言い様がなかった。
「それ、好きだよな」
あんたは、と愛称を口にする。
一番最初に教えた前戯であるから、記憶が鮮明なのだろうか。
あるいは、これは遊びなのだと端から理解しているのかもしれない。
外れそうな顎という器官もそこにあるのかどうかはわからないが、一息付くように咥え込んでいた匂い立つ体積を口中から引き抜いた。
見れば見るほど、あんなものが収まっていたのが不思議なくらい、小振りな口元だ。実際、どうやってむしゃぶりつているのかは知らないが、確かに顎がないのかもしれないと、その形の良い部品を見つめながら思った。
「…からな」
すぐに返事をしようとしたが、どうやら体がそれに追いつかなかったようだ。
唾液とともに他人の体液が混ざり合った液が口から零れるのを手の甲で拭いつつ、乱れた呼気が大分収まった頃に、改めて言い直した。
「口ん中でおっきくなんのが面白いからな」
本当は手でも充分事は足りるのだが、この場合本当のことは教えなくて良いだろう。
食い物以外を頬張ることに抵抗がないのは、物の摂取を本来要しない性質であるからかもしれない。単に何も考えていないだけかもしれないが、それを深く思考する必要はないだろう。
舌の表面に残る苦い味覚を、何度も自分の唇を舐めることで拡散させる。全部を飲ませた経験はまだないが、手酷く扱われてもめげないところが相手にはあった。
どんなに最中嫌だと思うことがあっても、次の瞬間というか、行為が終わった後に、その感想を引き摺ることがない。脳味噌が足りていないのかと危ぶんだこともあったが、目を輝かせてもう一丁とせがまれれば、悪い気はしなかった。
蕎麦の出前じゃねえんだぞと思いながら、この個体にいかれている事実は、もう何度も認識したことだ。
「おまえは俺の腹の中に出すのが好きだよな」
掻いた胡坐の上に座り、脚の間で反ったままの肉に手を掛けながら、大きく吊り上がった瞳が見上げてくる。
挑発しているような素振りは微塵もない。
事実を発しただけで、そこには非難も媚態も、感情の欠片すら浮かんではいなかった。
ああ、と率直に認め、後ろ手についている腕ごと肩を竦めて見せた。
「気持ちが良いからな」
そっか、と極ありふれた返答が返った。
独自の感想を述べたのではなく、相手の肉体のことを言ったのだが、その真意はどうやら通じなかったようだ。
そういう場面は、よくある。
「こいつも、気持ち良いのか?」
くびれに指を添え、頭を撫でた。
過敏な部分を刺激され、ぐ、とその腹が持ち上がった。目でわかる変化に、おお、と青い双眸が釘付けになる。
どうやら口で咥えている間は、『この物体』が心地良いことを直に感じられるのが面白いと受け取っているらしい。
腹の中に潜ってしまえば、口腔ほど直接的ではない分、頭で理解するのが難しいようだ。いや、自身を襲う強烈な感覚があるために、思考がうまく働かないと言う方が正しいだろう。
何の算段もなしにありのままを口に上らせる無邪気な相貌を、照れ隠しにも似た苦笑を浮かべて見下ろした。
裸のかいなを伸ばし、膝に乗っている丸い身体を掬い上げた。
容易に腕の中に収まる、実感のある個体。
「教えてやる」
囁き、唇を落とした。
塞いだ呼吸に、二人分の熱が篭もった。
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