+ ハパチ。 +

01/ままごとじゃない。

 自分には、あまり眠りは必要ではない。
 子どもの頃はむしろ、日がな一日を寝て過ごしていたが、故郷を失った時期を境に眠らなくなった。なのに、図体だけは睡眠時間と関係なく、がばがばとでかくなり。
 背の高い人間になっているという意識はなかった。同時に、自身の顔がどう変わって行ったのかも。持て囃されるほど造作に自信があるわけではなかったが、無論、それも興味がなかっただけだ。いや、所詮外見など、一時の気の迷いでしかないことは今も昔も変わりようのない認識としてあるだけで、そんなことに気を取られている暇などなかっただけだ。
 浅い覚醒の感覚。
 引き起こされるほど強引ではなく、相変わらず何を見ても醒めてしまう心地と同様の目覚めだった。
 一緒にいる連中と合わせるように早いうちから寝てしまうと、逆に夜中に目が覚めて手持ち無沙汰になる。長時間横になっている体勢というのも、固定されているようで気に入らない。
 さっさと起きて暗闇の中、散歩にでも出かけるかと思った瞬間、待てよ、と理性がストップをかけた。
 正面は天井だ。仰臥していたのだから当然だが、視界の隅にある、この、妙な盛り上がりは何だろう。
 布団は毛布とシーツの一枚きりだ。室内の空調が完備されているから、割と薄い。それゆえ自身が伏している恰好がよくわかるのだが、左脇にできている不自然な山は、見るからに丸い形をしていた。
 やっぱりな。
 半ば予想していたことではあるので、驚きやそれによる憤りはない。
 しかし、前以て言っておいたはずだ。
 こちらの陣地に入ってきたら、ただでは済まさないと。
 尊敬する首領パッチに向かって、そんな脅し文句のようなことを言えるわけがないが、忠告はしたはずだ。明らかにそれとわかる口調で諭したつもりだったが、押しが足りなかったのだろうか。
 それとも、そんなに好きなのかと思う。
 自分が、というか、自分と触れ合うのが。
 大人しげな形容を用いれば、これが昼間の空気の中であるなら気分も安らげただろう。気に入られているのだという実感を得られるのは、やはり胸糞が悪くなるような事態ではない。却って、正反対の思いで満たされる。
 しかし今はこんな暗がりで。どう考えても意識は夜だと知覚している。
 コミュニケーションが昼夜で天と地ほども違うのは、自分たちくらいだろう。
 コパッチたちはその逆で、太陽が昇っている間だけ首領パッチと大いに遊ぶことを楽しんでいた。けれど、今の自分は夜だけ構ってもらっている。こちらが望むことが常だったが、相手から強請られることも多い。
 今日は、どうやら後者だったのだろう。
 そっとベッドの上で上体を捻り、掛け布団の端をめくる。
 薄闇の中で、どうやら潜んできた者は膝を抱えたまま丸くなっているようだ。静かな寝息が耳に届くことから、辿り着いた先で襲ってきた睡魔に負けたのだろう。
 暗くなると途端に眠くなるのは、子どもの体質だ。目的を達成せずに欲求に従ってしまうのなら、こんな中途半端な真似はやめてほしい。
 とりあえず、予告をしておいたのだから、これから何をしたとしても非難される覚えはない。
 暫し黙考するなど、寝こけている相手に一切の猶予を与えることなく、覆い被さる。長い手足を駆使して、全体を覆うように見下ろすことなど容易だ。
 実際、首領パッチは四肢を除いてしまえばそれほど巨大というわけではない。球体である本体はしっかりとした体積があるが、質量はその時々で変化する。
 軽くなったり重くなったり、勿論大きさも日々一定であるわけではない。
 その事実に気づいているのは、同じ場所に居合わせた時必要以上に目を光らせて相手の動向を窺っている自分くらいだろう。別々であれば気にしたりはしないが、どうやら首領パッチには同じ体形を維持する機能が備わっていないようだ。この場合、未熟だと表する方が適切だろうか。
 たった数ミリ単位の相違なのだが、結構適当に毎時間変形し続けていることを本人に言っても、へー、の一言で終わりそうな気がする。どうでも良い豆知識なのだが、つくづく不思議な肉体だと思う。本当に細胞質であるのかどうかについても不明瞭なので、感嘆する以外、追及することはしないが。
 とりあえず。
 …下から起こすか。
 いそいそと、破天荒は黒いズボンのベルトを引き抜いた。

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