体重をかけて気配を悟られないよう指を忍ばせる。
後方の、自身の股間の奥に。
戒めのように腰を覆っていた厚手の下衣から解放するや否や、硬さを備えているのは皮肉としか言い様がない。その目の前には滑らかな張りを見せる首領パッチの尻がある。が、正確に言えばそこは足の間だった。
何の準備もなく突き入れるのはルールに反する。
多分、幾度となく挑まれた経験がある以上、相手のそれは苦もなく自身を受け入れてくれそうな気もしないではない。試してみたいと思ったが、そうなると本当に犯罪になり兼ねない。
残念ながら、敬愛すら感じている者に対して、そういう拉げた感情は抱かなかった。余程箍が外れない限り、その機会は得られないだろうと断言できる。大人しくこちらの暴力を受け入れる首領パッチというのも、無論想像できないが。
大きな音を立てないよう、毛布の下で利き腕を口元へ伸ばし、存分に二本の指を揃えたまま唾液で濡らした。丹念に、相手の内側へ宛がった時のように、場合によっては武器ともなる自らの食指に舌を絡め備えを施す。
熱を持ったそれで充分に湿らせると、水滴が滴り落ちる前に、その先端を伏している相手の背後へ運んだ。躊躇わず温もりに触れると、途端に小さな音が立つ。すぐに撫で擦りたい衝動に駆られたが、神経を落ち着かせるよう肩で静かに呼吸を繰り返した。
事の始まりから理性が暴走しかけるのを宥めなくてはならないのは、抱かんとする相手が首領パッチだからだろう。何度やっても慣れないというか、自慢ではないが、余裕というものを実感した験しがない。
手の届かない存在であるはずの相手に劣情を抱くのは、行為そのものを取っても恐れ多いという気持ちがあるのか。はたまた、過度の興奮が欲情の先走りを余儀なくしているのかはわからない。
今もちらちらと、火の粉が目の裏を踊り狂っているような感覚がある。暗闇の中、真っ黒な影に塗り潰された自身の頭部で、開いている二つの虚から異様な光が放たれているかのように。
無様なもんだと思いながら、やめられない毒のようなものがある。要するにこの感覚自体が、自身の弱みと言うべきものなのだろう。
誇り高い人間である以上、情けない部分がある事実を自ら認めることはできない。けれど、離れられない。そんなことに思い悩む自身がさも馬鹿げていると一笑しながら、だらだらとそれを抱え続けている。
首領パッチは、自分にとって本当に予想外の生き物だった。
生態がどうのとか、出生や年齢や身体的機能のことを言っているのではない。
長く退屈な人生の中で、そうではないものとして、命ある人が目の前に現れる事態など予測すらしていなかった。
いや、こんな人がいるのかと目から鱗が落ちたような気がした。
初めは衝撃で、それから驚嘆で。落胆と羞恥と、必然的な好意。欲求と惰性。そして紛れもない情欲。
自らが驚かされるような感慨をどんなに相手に対して抱いたとしても、それが首領パッチへと集約されるのなら受け入れられる。見苦しいとは思わない。
内心で舌打ちするような事柄でさえ、あの輝きの前では腐り果てて存在を無にする。
その単純明快な図式が自身の中で成り立ってしまったことに、今では清々とした気持ちでいる。
その、最終的な思いが、直接目の前の人物と結ばれている事実。
興奮せずにいられるわけがなかった。
だから、今この瞬間でさえ、沸々と湧き上がる情感は頗る強烈なものだ。何もかもを生み出す根源であるのだと告白したら、わけわかんねえこと言うな、で切り捨てられそうだが。
んなに、回りくどい思考だったつもりはなかったんだけどな。
もっとストレートに物事を捉えて、処理できる頭脳だと自負していたが。
たった一つにおいて弱みを抱えたとしても、恥ではない。むしろ、助長すればこのためだけに果てたとしても構わないと思えるようになるだろう。現時点でもその可能性がゼロであると否定はできなかったが、まだ間があった。もう少し、もっと貪欲に貪り尽くしたら。
更なる奥底で眠っている自身すら、揺り動かせるようになったら。
間違いなく、すべてを捧げられるだろうと認められる。
そっと、体温を重ね合わせるように身を屈める。
唇の先をトゲの隙間に埋め、押し当てた指に力を込めた。
|