「言わせてもらいますけど、おやびんて超感じやすいですよね」
は?、とすぐさま怪訝な返答が返る。
しかし、口火を切ったが最後、男の訴えは留まる所を知らなかった。
「もう全身性感帯ってくらい、びんびんに感じまくりっていうか」
それは別に構わないんですけどね、と恨み辛みに溢れた様子で捲くし立てる。
「感度が良いのは良いことだし、俺も仕込み甲斐があるから構わないんですけど」
へえ?、と更に訝しげな声が漏れる。
少しも意思が伝わっていないのは明白だ。
「でも、先に行くのは反則ですよ」
そこでようやく、子分の一人が何を言わんとしているのかを察したようだ。
あー、と呻くように一声発し、ぼりぼりと後頭部ならぬトゲの後ろを掻く。
「昨夜のことって、アレか」
えっちのことか、と間の抜けた調子で尋ねる。
間髪入れずにそうだとの肯定を受け、少しだけ拗ねたように首領パッチは目元を顰めた。
だってよお、と唇を微妙な形に歪める。まるで痒い所を我慢しているような素振りで無理矢理口をこじ開けた。
「おまえが、突き過ぎなんじゃん」
いつも、全然余裕がないくらい攻め立ててくると発言する。
それは真実なので、破天荒は取り合わなかった。
「じゃあおやびんは、入れたまま何もしない方が良いんですか」
据わった目で、しれっと返す。
もはや、拗ねているのはどちらなのか、区別がつきかねた。
意地の張り合いと思えなくもない。ハジケの下で師弟の契りを結び合った者同士。
当然のことながら、当事者らがそれを認識する機会はなかった。
付き合わせた面を、互いに見つめ合う。
一言で表わされた内容を、一度口の中で反復して首領パッチは内容を懸命に把握しようと努めた。
直後に意図が噛み砕けないのは、判断力が乏しいのではなく、賢くないと言うのが正解だろう。
「突かなかったら…、どうなるんだ?」
想像力がうまく働かなかったのか、疑問符が飛んだ。
「おやびんの中で、がちがちのままいるってことですね」
もちろん、時間が経てばどうなるかはわからない。
業を煮やして動き出すかもしれないし、そのまま萎れてしまうとも限らない。予想としては、当人の気持ちとはまるで違う動きをする箇所であるだけに、萎えて元の形に戻ることはないだろう。
けれど、それを説明したところで相手に真意が伝わるとは思わなかった。入った者にしかわからない感覚であれば、事細かに解説する必要はない。
ただ、状況が理解できないらしい首領パッチの脳を補うために、能と露骨な表現で言葉を補った。
俺の中で、がちがち…。
言われた通りを繰り返す。
綺麗な青い瞳は、上を見上げるように、いつのまにか上方へ移動していた。白い指も、知らず口元に添えられている。
途端に、その頬が色づいた。赤と思しき鮮やかな色彩が、身体の中央を染め上げる。
「……………いくない」
それを言うなら良くない、だ。
「でも、動かれるのも嫌なんですよね?」
小声で呟かれたことを揶揄するように、はっきりとした発音で畳み掛ける。
喉を潰したような唸り声が破天荒の耳に届いた。
改めて聞かれたくないことを問われ、答に窮しているのは確かめるまでもない。
「…や、じゃねえ……」
それでもぼそりと、少しずつ肚の内を明かしてゆく。
誘導されているとの意識はないようだ。恐らく、会話を続ける破天荒にもその自覚はなかっただろう。
生来狡賢いことに頭が働く性分ゆえ、無意識であったのかもしれない。だが曲がりなりにも、本心でぶつかっているつもりだった。少なくとも、体裁だけはそうだと自負していたのだが。
「だったら、俺がおやびんの中をかき回しても良いってことですよね?」
長い沈黙の後、ん、と短い声が聞こえた。同時に、目線も上下に動いたようだ。
何とか同意を得られて、良かったと、態度と体格と欲望が人並はずれて巨大な男は心底から安堵した。
勝利を得たという喜びより、疲労感がどっと押し寄せたのは気のせいではない。
しかし納得が行かないのか、でも、と白い枕に座り込んだ側から異論が挙がった。
それを受け、頭上から見下ろす側がやんわりと遮った。
その眼光には獰猛な光が宿っていたことを、相手は察知できなかったようだ。
そうそう、とさも今気づいたと言わんばかりに話しかける。
「おやびんと話しているうちに、こんなになっちゃいました」
どうしましょう?、と自身の股間を指で差し示す。
そこには、夕べの大きさも斯くやと思われるほど、いきり立った一物が我を主張していた。
どうもこうもない。
ぶんぶんと、頭というか全身を横に振って拒絶を示す。
それを甘受できるほど、対する者は懐の大きな人間ではなかった。
むしろ、無茶苦茶狭かった。
これに関してだけは、親分たる首領パッチを凌駕すると断言できる。間違っても、自慢になるような例えではない。
「今度こそ、観念してくださいね」
満面に湛えた笑みには、有無を言わせぬ行使力がある。
にじり寄られるように逃げ場を失った首領パッチは、ひええと声にならない悲鳴を上げた。
下心を自ら容認している者ほど、始末に終えない。
延々、埒が明かない。
即ち。
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