「あ…」
初対面で、あ、とか言われて良い気のする奴はいない。
注目されるのは好きでも、たった一人の人間に指を指されて呆然と見つめられるのはあんまり歓迎できることじゃなかった。
つか、宇宙人じゃねえんだから口開けたまま驚くなっつの。それとも、自分の身体があまりに人間離れしているからだろうか。
有名人じゃ、仕方ねえか。
夕暮れ時。飯の買出しで往来する人の数も多い。
そんなところで呼び止められたのは、正直不運としか言い様がなかった。が、諦めて後ろを振り返る。
右の踵を軸に、半回転したその先にいたのは。
「ぱっちんさん…!!」
ちょっと掠れ声の毬栗頭。
いわゆる変声期というやつなのだろう。
頭は金髪らしいが、色が薄いので尚のこと硬質そうに映った。
細くて鋭い針を、目一杯頭から生やしているような栗頭の子どもが、自分の顔を見るなり駆け寄ってきた。
いや、むしろそんな和やかな印象じゃなかった。
どだだだと砂埃を上げて(ついでに人を五六人跳ね飛ばして)猛烈に突き進んできた奴は、辿り着いた場所ではーはーと肩で息をした。
「俺です。わかりますか!?」
頬を紅潮させて汗だくになっている子どもは、身長的には同じ高さくらいだ。
けれどトゲがある分、目線はこっちの方が相手の頭一つ分くらい低かった。覗き込むように、膝頭を両手で押さえて見つめてくる。てか、食い入るように凝視し過ぎ。
そいつの目ん玉は、赤なのか黄色なのかよくわからなかった。
グラデーションでもかかっているみたいに、見る角度で色彩が変化する。けど、その中間のオレンジではないらしい。一個の目の中に似ているけど近くない二つの色を一遍に詰め込んでるような瞳だった。
眉毛もないんじゃないかと思えるくらい細いし、色自体頭髪同様薄いから目立たない。肌も同じっぽくて、なんだかのっぺらぼうみたいに映る。
ていうか、どこのどいつと間違えてんだ。
「おい。俺はぱっちんなんていう、間抜けな名前じゃねえぞ」
え、と相手は言葉に詰まったようだ。
いきなり話しかけてきて顔を覗き込んだり、親しげだったり。一般人がこの俺に、馴れ馴れしいんだよ。
別に子どもは嫌いじゃないが、今日はちょっとだけ機嫌が悪かった。
そもそも、おやつに出た羊羹が悪い。
何で俺のだけ一枚薄いんだよ。
コパッチに聞いたら、それはおやびんが食べたがっていた端っこだからです、と返された。
確かに形は妙だった。角が凹んで丸いし、もしかしたら中心の厚みはもう一枚の羊羹の切れ端より厚かったのかもしれない。じゃあ目の錯覚なのかと思ったが、比べようにも他の奴らはすでにおやつを全部食い終わってた。
…追求させてくれよ。
真実を追い求めることを途中で放棄され、成す術なくがっくりと地面に両手を付いて項垂れたのは、ほんの数分前の出来事だ。
「おやつが食べたいんですか?」
握り拳で回想していたら、いきなり横からそう問いかけられた。
ていうか、もしかして今の、声に出てたってやつ?
「おう!俺は今、和菓子に凝ってんだ!!!」
ショートケーキショートケーキと喚きまくる。
それは全然洋風ですよと冷静に指摘しつつ、その子どもはよし、と手を打った。
赤いジャケットのポケットをごそごそと探し、熊と太陽がドッキングしたような丸い財布の中身を確かめる。
「俺がご馳走しますよ、ぱっちんさん」
言いながら、そいつはやけに嬉しそうに微笑んだ。
13歳児(多分)×おやびん…。
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