「……………………」
過去の懐かしい七不思議体験を聞いていた奴は、こちらの顔を見つめたまま無言でいた。
そして徐に、深い溜め息を吐く。
海よりも深く、海溝を突き進んでマントルに至るくらいに、落ち込んだ空気が辺りを満たした。
夕暮れの海に面した断崖の上で。
というか、正直葬式帰りかと思った。
塩は持っていなかったが、そこら辺の土でも拾って黄色い頭に振りかけてやろうかと思うくらい、闇属性のキャラクターと化している。
相変わらずど派手な出で立ちだが、背負った影は幽霊もびっくりなくらい高等レベルだった。
「んだよ、しけた面してんな?」
体育座りで横に腰を下ろす、ハジケ組の子分の中で一番ののっぽは、それを聞いて更に大きな嘆息を口外へ吐き出した。
「おやびん……」
その表情は、冴えないどころか、ほとんど死人に近かった。
出てきた声音も、なんかエコーがかかってるっぽい。
いつからこいつは生ける屍に転職したんだ?、と思いながら、目線だけを横脇にやる。
「…おやびんは、そうだったんですね……」
要領を得ず、だからなんだよと聞き返す。
命令ではなかったが、埒の明かない会話を続けていられるほど気は長くない。身体に生えてるトゲの一本分より、短いくらいだ。
もしかしたら、登頂の直径くらいしかないかもしれない。
その口元が、ふっ、と虚ろな微笑を刷く。
「おやびんは、ばーじんじゃなかったんですね…………」
「………………」
じーぱんじゃないのは、見りゃわかるだろ。
その時なんと答えたか、記憶は定かではない。
とにかく、物事は早々に忘れ去るのが俺の素敵な流儀だっつーか。
夕日を見つめて黙り込んだ男は、夜になってもそこから動くことはなかった。
おわり。
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