ここのこの場所に、どうして入り口があるのか。
構造について、不思議に思うことがなくなって久しい。
加減をしたつもりだが、知らない人間が見れば突き刺したように見えなくもないだろう。
押し付けた食指の先端をめり込ませた者は、浅い位置で関節を蠢かせた。
殊更ゆっくり、しっとりと吸い付いてくる窪みを二つの指で押し広げる。乱暴に前後へ抽挿を繰り返しても良かったのだが、自分はこの感触を甚く気に入っていた。
それに、まだ精神面では余裕がある。肉体はいつ事に及んでもおかしくはないレベルに達しているが、まだ自制が利いた。
口を生じさせただけでは、首領パッチの中に変化はない。
少しずつ、リズミカルに出し入れを続けていると、温もった隙間が熱を帯び始めた。
丹念に執拗とも思えるほど同じ動作を続けていると、一体どちらの汗かもわからないものが、触れた面積から滲み出す。そこから心地良い水音が立つのに、そう時間はかからなかった。
勿論、刺激を受ける首領パッチ自身が感じているわけではない。
本人はうつ伏せたまま、意識を手放している。
であれば、本体とは別の自我。つまりは、無意識の反射でしかないのだろう。
それでも、実感はある。応えるように尖指を締め付けてくるのは、馴染んだ者だと首領パッチの内部が知覚しているからだ。
びくびくと脈打つように、ぬめった壁が皮膚に絡んでくる。
蕩けるような放熱に半ば陶然としつつ、長い指を内壁に押し当てては、時折引っ掻くように折り曲げた。
空洞を広げる行為よりも、擦り当てたいと願う衝動が強くある。それを興させるほど、首領パッチの股間に穿たれた箇所は、頗る良質の感覚を植え付けた。
この部分に、触覚以上のものを押し込むのだと想像しただけで、脳味噌が音を立てて沸騰しそうになる。
いつしか濡れた音に混じって、忙しなく吐き出される呼吸が狭い空間を満たした。おのれの内面を表わしていると言うには、それはひどく如実で、生々しかった。
獰猛で、しかし辛うじて堰き止められている感情。
理性か、現実という枷か。
いずれにしても、暴発という凶行には至らせまいと抑制する意思がある。それを可能にしているのは、腹の下にいる相手が放つ、かすかな気配だった。
思い出したように、動きに混ざって時々ぴくりと首領パッチのトゲが微動する。安らかな寝息が鼻腔から漏れ、ほとんどわからないような変化で全身を波打たせている。
過度の刺激を与えれば、起こしてしまうのではないかとの懸念はすでにない。覚醒しようがしまいが、目的まで突き進むことに余念はなかった。
むしろ、身体の中で暴れ回る野性が出口を求め、眼下に眠る人に注ぎ込まれたいと願っている。首領パッチの内に隠された、温かな優しい器官に入って行きたいと。
もう幾度目かも定かではない唾を飲み干し、破天荒は引き抜いた指を自身の雄に当てた。いきり立っている男根を扱けば、更に硬度を増す。
張り詰めた性器を宛がえば、受け入れる側に負担を強いるだけだ。しかし探った局部から察するに、大事には至らないだろうと結論する。
相変わらず侵入した者に興味津々な態度を続ける首領パッチの内部は、多少乱暴な扱いをしても怯んだりはしないだろう。それほど淫蕩な身体だと評しても、あながち間違いではない。
それどころか、危険だと判断するのはこちらである場合も少なくなかった。
百戦錬磨とは言わないまでも、体裁を取り繕うまでに追い込まれた経験がない破天荒でさえ、先に達してしまうのではないかと内心で舌打ちしたことは数度では利かなかった。
おやびんは、名器ですね。
相手と何度か性交を経験した者として、親父臭いことを実際告げてみても、まーな、と胸を張って受け止められそうな気もする。
その本人は最中、良過ぎる感度に対して、必死に抵抗しているというか、流されているだけなのだが。
他人に自慢できるほどの素質を折角所持しているのに、それによって自らが窮地に陥っている様は、滑稽を通り越してむしろ不憫とさえ思えた。そうさせているのは、紛れもない自分自身であるにも関わらず。
しかしそれは今更過ぎる事実なので、問題視することは恐らく永久にないだろう。
先ほどまで指を咥えていた場所に、厚みと質量を備えた塊を押し当てる。
大きな体積が熱量となって、ずぶりと局所に埋められた。
存分に前戯を施したとはいえ、些か潤沢が足りなかったかもしれない。きついかと思われたそこは、だが突き入れた者の予想を裏切った。
先端の括れを挿入した後は、適度な締め付けがあるだけで息を詰めるような事態にはならなかった。
肉棒をやんわりと包み込み、絞るように絡みつく。脈打つものと呼応するように、内側の壁が収縮するような錯覚があった。
どうやら、心配には及ばなかったようだ。思った以上に、首領パッチの身体は人間とのセックスに適応している。否、それ以上に適合している。
挿入した部位が、本当に性交するための器官であるかどうかは、今以て不明だ。だが、ヒューマンの性器を受け入れて動じないどころか喜ぶような仕草は、先刻の賛嘆に少しも恥じないものであるかのようだった。
食い込んだ肉を離さず、今も弄るように蠕動し続けている。まるで交接器そのものが生き物であるかのように、咥えた男根を弄ることをやめない。
早く次の刺激が欲しいのだと訴えるような反応は、著しい欲情となって、肉体の中心から脳細胞を麻痺させる。それは妄想などではなく、紛うことなき真実だった。
本物の女にだってこれほど優秀な奴はいないと、いつか口にした賞賛を今一度囁きたい気分になる。
首領パッチ自身は色恋だろうとセックスだろうと、それらに関しては素人というか初心者だが、ここは間違いなく玄人だった。
それも大が付くほどの淫乱だなどと表したら、関係者から注意を受ける羽目になるだろう。当人からは、へー、の一言だけで、お咎めもなく終わってしまいそうだが。
しかし、先っぽだけであるとはいえ、当初の目的はほぼ達されたと言えるだろう。
勿論、入れただけで済ますつもりはないが、侵入してしまえばこちらのものだ。
主導権は、辛うじてこちらが所有していると見るべきだろう。
本体である首領パッチの意識が戻らない分、意図せず動いている場所に歯止めが利かなくなっているとの心配事があるにはあるが。
ほ、と、破天荒は音にならぬ吐息を漏らした。
大きく動揺した心拍を平常時まで近づけようと、ゆっくり深呼吸をした瞬間。
下にしていた肢体が、びくんと振れた。
一瞬動きを止め、その場で留まる。
だが中途半端な状況で長く静止し続けていられるほど、性急さを欠いたわけではない。
挿入した部分を出し入れしたいという欲求と、それを抑制する神経の働きが、極度の緊張を生む。
湧き上がる情動を無理に押し込めることはせず、破天荒は身構えた。
覆い被さられたままの首領パッチがわずかに身じろぐと同時に、ぎゅ、と内部が締まった。
堅い一物が張りのある温かい内壁に押し潰され、快感が一気に全身を駆け抜ける。まだ根元まで収めきっていないというのに、内側が一斉に脈動したような感覚に息を呑んだ。
余波を受け流すように、知らず破天荒は歯を食い縛った。眉間が力み、肌に細かい溝が刻まれる。
油断したと、かすかな後悔を面に滲ませつつ、シーツを掴んでいた腕を屈した。
吐き出された息は、内心の惑乱を表わすかのように幾分乱れている。汗も、幾筋か流れたようだ。
構わず、破天荒は声を放った。
「おやびん…?」
唇を近づけ、低く囁く。
発された音が掠れているのは、故意ではない。
男の急所を捕らえられたまま、平静でいられる方がどうかしている。
しかも、格段に優れた機能を所持している箇所に埋め込んだままであるのだとしたら、集中力を途切れさせないことが最も苦心する事柄だった。
上体の距離を縮める毎に、ベッドが軋む。
スプリングの密かな悲鳴とともに、接合部分で卑猥な音が立った。
食い破ろうと突き入れた者と、離すまいと咥え続ける者。
その両者の鬩ぎ合いのような融合のようなものが、自身と真下にある体の後ろで確実に生まれている。
それすら神経を昂らせる材料でしかないのだが、敢えてそこから目を逸らし、押し伏せた者の正体を窺った。
再度正気かどうかを尋ねると、聞き取れないほどか細い応答が返った。
ん、と呻く声音は、嗚咽が途切れたような、微細な艶がある。そんなものとは永久に縁がないと思われる相手から、それを匂わせるような音を聞かされれば、がつんと股間に来るものがある。
しかし破天荒は、冷静に状況を見極めた。
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