まっ、まっ、まっ。
マジなの!?本気なの!???
息がかかるほど間近で、慌てふためく声がする。
そんなもの、すでに血走った眼光を見れば、改めて尋ねるような事柄ではないはずだ。
むしろ、相手の呼吸を肌で感じ取ることができて、更に欲望が加速する。このまま強引に推し進めても構わないと思ってしまうほど、昂揚した精神を煽るには充分過ぎるほどの効果があった。
マジに決まっている。本気でなければ、ここまで余裕のない状態であるわけがない。
筋の通った理屈とは程遠い文言を吐き募りながら、逃げ場を与えないよう覆い被さった。
眼下で見るその人は、三角に尖った眼をこれでもかというくらい見開いている。
先刻の、飄々とした風情はどこへやら。もしかして、今更非常事態だという事実を悟ったのだろうか。
遅過ぎる。勃った一物は、すでに留まれないところまで来ているのに。
殊更ゆっくりと指を持ち上げ、そのうちの二本を目の前で含む。存分に唾液を施し、手首を伝って服の袖を濡らすのも構わず、分厚い舌で絡めた液を塗りたくった。
その動きを追うように、小さな双眸が上下を往ったり来たりする。焦点の合った影の奥でにっこりと微笑めば、ぎくりと顔面を硬直させた。
用意を整えた食指を、すっと股の間に落とす。空中からすとん、と地面に落ちたそれを、また青い瞳が追う。
声にならない呻きが聞こえたかと思われた刹那、必要な場所に必要な器官が口を現した。
入口をなぞるように数回往復させ、それから速度を落として指の腹で押す。鈍い水音に似たか細い音響とともに、秘所へ先端がうずめられた。
え?え?え?
驚き、懸命に自身の下腹を覗き込もうとして、真円の身体によって阻まれる。
どんなに身を屈しても、絶対に見ることが適わないだろうと断言できる様は、ある種の不憫を抱かせる。しかし、全身を駆け巡ったのは、恍惚という名の興奮だった。
「うわっ、うひゃっ…!」
中で棒切れのような指が擦れる度、しゃくり上げたような悲鳴が届く。
それに気を良くしながら枝頭を左右に動かし、内壁を押し広げれば、内側から透明な液が滲んできた。
ああ、この人も感じてるんだ。
間の抜けた感想を抱えたまま、玩ぶようにそこを弄り回した。
心底から好きな相手だからこそ、あらゆる暴挙に出てしまう。その行為が許されると錯覚している時点で、理性そのものが崩壊しているのだと察するべきだった。けれど、指で触れただけでも気持ち良さがわかる稀有な箇所を調べ上げることに、性欲の充足と同じものを実感してしまっていた。
「あ、いや(否)、…駄目だろ…、そこは…」
おかしな嬌声だと思いながら、ぐりぐりと差し込んだ物を蜜壷のようなそこで回転させる。
こんな五指の、たかが二つ如きで感極まって震えるようでは、本物を入れた時には一体どうなるのか。
挿入願望は勿論あったが、このまま指だけで絶頂を迎えさせるのも良い趣向かと思い始める。
即座にそれを好しと判断した獣は、更に念入りに筒状の空洞を出し入れする塊でかき回した。
淫猥な効果音が耳を打ち、真下で綺麗な色彩を放ち続ける人が、動きに合わせるように肉体を跳ねさせる。
見ているだけで、こっちも昇天してしまいそうだと思いながら、そこを動かすことだけに意識を集中させた。
いつのまにか抜き差しする動作に合わせて、下になった側が下半身を蠢かせる。快感を得ているという明らかな所作に、かっと陰茎から何からが、真っ赤に染まった。
やべえ、出る、と思ったのも束の間、差し込んだ指から溢れた大量の体液とともに、噴き出した自身の欲望がその橙色の姿態を白く染め上げた。
「…という、夢を見たんですよね……」
要するに、手だけで相手を達かせようとして、諸共に行ってしまったと。
ねえ、とわずかに間延びした語尾が沈んだ先。なぜか両腕の下には、自分が敬愛し、尊敬し、欲情もしている組の大親分が身を震わせていた。
「ですよね、じゃねえ…っっ!!」
大声を張り上げているつもりで、その大半は涙声だ。
はーはーと、大仕事をやり遂げた後でもここまで消耗しないだろう体で、汗だくになりながら睨みつける。
「…こ、こんな…。こんなあ…!!」
寝起きゆえに、あまり状況を把握し切れていない男へ、負け惜しみのような慟哭が響いた。
「ゆ、許さねえからなーっあーあーっ!!!」
五重か八重の反響を残し、よたついた足取りでだーっとその人は寝室から飛び出していった。
自室に残された破天荒は、わけがわからず、半眼を開いたまま、布団の上でぽりぽりと後頭部を掻いた。
ふと、後ろの方で嫌な音がして、自らの掌を見てみると、そこには見るからにえっちな液と思しきものがべっとりと付着していた。
「………………」
思わず、もう片方の手で履いているはずのズボンを探れば、そこには立派に屹立した元気の象徴。
むき出しになったその先や裏が心持ち濡れているのは、先走りだけが原因ではなかった。
恐らく、これを下衣から取り出して、先ほどまで一心不乱に舐めていたであろう、首領パッチの。
「………………………」
襲った下半身の持ち主に、逆に手篭めにされた首領パッチは、その日一日、神社で引いたおみくじの紙札を自らの額に張ったまま、糠床で漬物と一緒にうずくまっていた。
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