キャストの男が恋愛対象のアークス。
興味を持ったきっかけは、噂を耳にしたからだ。
今の時代、種族を区別して恋する相手を選ぶ者は少ない。
それがアークスであれ、一般市民であれ。
ヒューマンだろうとニューマンだろうと、生身を持たないキャストだろうと、ほぼ無関係だ。
なのに、わざわざキャストに限定するのには理由があるのか。 試してみたい、と思った。
アークスの名は、masig。
名前はただの通り名に過ぎず、個体を識別、認識するためだけの記号のようなものだ。
元来遺伝子レベルの親しか持たない自分たちには相応しく、好きなように名乗ることができる。
すでに生まれた時に数字で決められた個体識別番号――IDを持っているため、呼び名を頻繁に変えても問題はない。
アークスとなれば更に通り名の方が有名になるので、最初に付けられた呼び名の意味はなくなってくる。
活躍に応じてアークスの中で知名度が高くなり、一般的に知られるほどに名前も一つに固定されていくからだ。
逆を言えば、悪名はすぐに廃れる。
話が逸れたが、当の本人を見つけるのに操作端末でアークスカードを探す必要はなかった。
居住、所属するシップを特定さえできれば、シップ間移動の申請を経て、容易く目当てのアークスに会えると予想したからだ。
自分がキャストだという理由もあるだろうが、長い時間を待たずに会えるだろうと思っていた。
かくして、目的のアークスと会えたわけだが。
この男、面白い、と直感したのは、怪訝な表情を崩さないのに、こちらがキャストであることをわかっているので視線を逸らせずにいたからだ。
興味を持っているということは、今はフリーか。複数でも気にしないかのどちらかだろう。
アークスの恋愛観は常識的だ。
非常識を学習する場が少ないからだが、心根が純粋な者が多い。
育つ環境がオラクル船団で統一されているからだが、趣味嗜好は無論、千差万別だ。
好もしいと思った相手を手当たり次第、無差別に選ぶ者もいれば、当然のように一人を選ぶ者もいる。
アークスそのものは血筋よりも遺伝子の存続が目的であるため、婚姻という儀礼が必須ではないオラクルではペアを頻繁に変えることも珍しくなかった。
噂通りであれば、この男もこれまで何人かのキャストを相手にしたということになる。
(補足説明)
PSO2の舞台では家族というものが存在するようですが、各々のユーザーが生み出す「アークス」には家族がいるという設定ではないので、結婚という概念はない物として創作しています。その方が楽しいし(?)…ね!
-2016/01/15
→NEXT