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駄話[01] ■-

 超人オリンピック・ザ・レザレクション。

 数十年前開催されて以後、開かれることのなかった正義超人最大の祭典が復活する運びとなった。
 開催宣言と同時に、各国から選りすぐりの超人たちが名乗りを挙げ、出身国の予選試合に臨む。大なり小なり地域差はあるが、主要都市が大きいところほど規模もそれに比例する。
 即ち、有能な超人の参加も然り。
 すでに予選前から国の代表となるだろう祖国出身の正義超人が、各雑誌に取り上げられ、各々が名を連ねている。優勝候補と目される彼らは期待に沸く故郷の人々の予想通りに選考試合を勝ち進み、本大会へと駒を進めるだろう。
 人気超人を応援するサポーターたちの群れ。活気立つ街頭のポスター。そのどれもが、世紀の一大イベントに沸いている。国を挙げての、まさに復活を遂げたと言うに相応しい世紀の大会だった。

 補佐の依頼を受けたのは、軍事部門統括から。
 国の威信にかけて、栄えある英国代表となったある超人のサポートを頼みたいと言われた。正確には、命じられたのだが。
 直属の上司の立っての頼みとあらば断るわけには行かない。無論、それ以前に拒否する権限はこちらにはなかった。
 同じ超人として、一度は名を耳にしたことのある蒼い鉄兜の獅子。
 英国民であれば、誰一人知らぬ者のない英雄の嗣子。
 机上に示された書類と写真を眼下に収め、つと視線を上げる。拒否がないのなら、無言も肯定のうち。命令は下され、請けた任務として認知した後、その内容に目を通した。
 目的は簡潔に、英国代表超人ケビンマスクを超人オリンピックで優勝させることとある。
 国が総力を挙げてサポートをすれば、叶わぬことではない。そして、各国も恐らくそのつもりだろう。であれば、選出した超人の活躍イコールどの出身国が最も有能であるかという事実を、必然的に問われる寸法だ。そう解釈して間違いはないだろう。
 軍がそこに介入してくるのであれば、如何にこの大会に英国のプライドを賭けているかが知れるというものだ。あるいは、もっと上の、国の最高権力直々の方針かもしれない。
 軍部に所属する数少ない超人の自分を起用するくらいであるから、その可能性が必ずしもゼロだと断言することはできなかった。
 元々寡黙な性分である上、上司であろうと情報交換以外に利く口は持たない。
 交流の手段が口先だけの世界は見飽きた。
 幼い頃に誰に植え込まれたかは知らないが、黙しながら情報を収集することが時間の大半を占めていた。なのに眼光だけが鋭く、物言わず睨みつけていると難癖をつける者もいたが、大抵の者は雑言を吐き捨てるだけに終わった。
 超人相手に、本気で殴りかかろうなどという愚か者は滅多にいない。幼少の頃ならいざ知らず、月日とともに体格が目に見えて違ってくれば、恐れて近寄らなくなるのが普通の人間の神経だ。
 大陸には、超人排斥運動などという排他的な活動家たちがいるらしいが、英国は割と自分たちを珍重してくれる国だった。ロビンマスクという、『英雄』とまで謳われた超人の活躍があったおかげだろう。
 地球上で異端者として世間の目に晒される者たちには、イメージアップが必要だった。ロビンマスクはそれを見事にやり遂せた点では、まさに人間にとっても超人にとっても、英雄と呼ばれるべき存在だった。
 だが、このケビンマスクは。

 風評は、決して良くはない。
 女王陛下から貴族の称号を賜ったロビン家の跡取りでありながら、幼い頃に家名を負うことを拒否して家を飛び出している。その後、一般人に手を上げるなどして荒くれの一途を辿ったと報告された。
 犠牲となるのは常に下町の不良どもだったが、ロビン家のイメージを失墜させるには充分な醜聞だった。
 それでも英国民が彼を支持するのは、ケビンマスクが父のロビンマスク同様、一種のカリスマ性を持っているからだ。
 見栄えのする容貌と、言動の奇抜さ。
 少しくらいそこに危険な色が含まれていても、熱烈なサポーターを狂喜させる材料になるだけだった。
 若い人間は、まるで何かにとり憑かれたように、ケビンマスクの荒荒しく獰猛なファイトに惹かれてゆく。国民性と見るべきだろうが、そうした残忍な部分が火に油を注ぐように、ケビンマスクという超人の人気に拍車をかけた。
 保守的な年配のホワイトカラーたちは眉を潜め、ブルーカラーの若者たちが退廃的なケビンマスクの一挙一動に熱狂的になるのは、いつの時代でも同じだろう。強烈な色の前では、誰もがそれに引き摺られる。
 そして、英国には二面性があることも理由だった。
 紳士の国と称されるだけはあり礼を重んじる貴族階級を彷彿とさせるが、一方で常にエネルギーを発散したがっている若年の低所得層が犇いているイメージが強い。
 血塗られた王位交代劇を繰り返した過去が、後者を形成させた要因の一つであることは周知の事実だ。この二つの異なる階層は、近いようで遠く、一つに合わさることは永遠にない。そして、それを彼らも望んではいなかった。
 矛盾する側面が両立し、対立する。栄光の国を象徴しているが、反面血生臭い因習を好む。それが英国という大国の本質だった。
 だが本心とは別に、国の名誉という名の虚栄が、上の保守的な人間たちを動かした。一国の栄誉をケビンマスクに被せ、彼の優勝を真実願うことで自らの自尊心を満足させようとしている。
 でなければ、わざわざ上が手を回したりはしないだろう。しかも極力ケビンマスクの負担にならないよう、同じ超人を起用するあたり、その尋常ならざる心遣いというものが窺える。
 当てるなら、人間ではなく同じ超人を。
 妥当で姑息な考え方だ。
 だが無論、その期待を裏切るつもりはない。それだけの自負とプライドくらい、頼まれずとも持ち合わせているからだ。
 出生の如何に関わらず、まごう事無き自身もこの国の出身と言わずばならないだろう。
 間違いではない。
 現時点ではそれは確かに真実だった。

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2002.02.02。--2005.02.20改稿。