海賊になろうなどという連中の素性など、大方似たようなものだ。
だから今回も、断罪を待つ囚人のように少し項垂れたような姿で語る、一番若い息子の告白に格別な驚きはなかった。
その、中身を聞くまでは。
「……………」
束の間、沈黙が流れた。
それほどの衝撃だったと表すよりも、第一に浮かんだのは不可解だとの考えだ。
仮にエースが一切の偽りを口にしていなかったとしても、俄かには信じられなかったからだ。
こちらの内心を察してか、年若い息子は淡々と事情を説明した。
実の母親によって生かされたこと。
十七になるまで隠れ育った場所には厳しい海軍の目が届かなかったこと。
すべてを聞き終え、脳裏に興ったのは、ただの一言だった。
まるで、程の良いつくり話のような、奇跡だと。
そうか、と知らず言葉が出た。
感心するとともに、驚いたなと、本心からの感想が漏れる。
「…性格は親父と似つかねェが」
全くの別人とは言い切れないが、かつての敵を知っている者は、これがまさか因縁の仇敵の忘れ形見だろうとは思うまい。
一歩引いて考えてみたとしても、世界中に海軍の捜索の手が伸び、一族は疎か、関わった人間すべてを根絶やしにされたほどの最重要人物だ。その血縁者が生きているなど、誰も考えはしなかっただろう。
あの海賊王と呼ばれた男と懇意にしていたことを理由に、重刑に処された身内を持つ人間にとっても、数十年経った今でも忌々しい名であることに変わりはない。
恨んでいる人間は、それこそ地上だけに留まらない。正に星の数ほど存在していた。
その中で運良く生き残った者も確かにいるが、相応の実力者であっても、所在を眩ませることまではできなかった。
それが今の今まで、奴らの目を欺き続けていたとは。
「敵だったんだろ?…おれを追い出さねェのか」
すでに自身の処遇を諦めたような、覚めたような声音が灯りを絞った室内に抑揚なく響いた。
下らねェ、と端的に思う。
今更真実を聞かされたところで、親と子の縁を切れるものかと。
氏素性に問題のある海賊なら、履いて捨てるほど知っている。
そいつらがおのれの身に何の不満もなく、過去も現在も広大な海の上で暴れ回っていることを。
青く美しい海原へ飛び出した今になって、そいつらの身上を咎めること自体が愚かだと思えるからだ。
だからこそ、これまで通り、千人を超える息子たちにかけてきた同じ詞を繰り返す。
いつものように豪快に笑い飛ばしてやれば、こいつはどんな面を見せるのか。
-2011/11/03
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