ちらりと上空に浮かぶ縦長に伸びた顔を一瞥し、聞こえぬよう小さく息を吐く。
手足と同じくらい長いと言われることの多い指を五本揃えて下へずらし、亀頭と呼ぶには大きすぎる物体の横から囓りついた。
歯を立ててはいないが、どこかしら好物の肉の塊に食らいつくのと似たような気になってくる。
しかしそれと明らかに異なるのは、サイズこそ桁外れだが、自身も持っているイチモツであるという点と、それゆえの生理的な違和感。要するに、紛うことのない生々しさがあった。
吐き気を覚えるほどではないが、快感かと問われればそうではない。
苦手だとは言わないが、好んで同性の股座に顔を埋めて奉仕したいとは、若さとプライドが邪魔をして断言すること自体ができなかった。
わずかに呼吸がその表面を撫でただけで、どくりと幹の胴体に浮き上がった幅のある黒い血管が脈打つ。
これだけ膨大な質量があれば、少しくらい感覚が鈍っていてもおかしくはないと思ったが、どうやら男の視界にはセックスを愛撫する自分の表情が映っているらしかった。
こんな、下の中か、良くても中の下ほどくらいしかない醜い容貌など腹の足しにもならないだろうに。
それでも、何某かの、相手にしかわからないような興を僅かであっても覚えるというのなら、得をしたような気分になってくる。
一心不乱に舌を這わせて極太の肉棒に文字どおりむしゃぶりつきながら、時折長く垂れた横髪の間からちらちらと向こうの様子を窺った。
どんな顔をしているのかとか、不快だと思われていないかとか、つまらない理由で気にはなるからだ。
食らいついてから角度を変えていないことに気づき、今度は下からペニスを舐めた。
むくむくと起き上がるような微細な振動が伝わり、先端をできるだけ強く吸ってから顔を離した。
「………こんなモンだろ」
それでいいのか?、と訊かれる。
「おれは、この程度で充分だ」
硬く成長をさせ過ぎると、辛うじて直腸に収まった後で締めつけがきついと言われたことがある。
女の場合は知らないが、適当な硬度さえあれば個人的には満足だった。
詳しいことはわからないが、どうやら直前まで舐め続けていた男の性器は、並のものより形が良いらしい。
大きさはすでに巨人族もかくやといった具合だが、何よりも造形が際立って優れているようだ。
だから同じ性別の自分でさえ、その手というか、下半身によって最終的には行かされてしまうのだろう。
勿論、同衾することはそれだけが目的ではないことも自覚している。
「そろそろ、おれの方の準備をしねェと…」
言いながら体をずらして膝の上から降りようとしたが、二の腕を掴まれて引き留められた。
「……?、オヤジ」
「一人でやんのか?」
いつもはどうだったのだと、普段は厳しさを湛えた目を細めて見下ろしてくる。
一瞬、何を問われたのかわからなかったが、その答に詰まった。
あんたに擦ってもらってるなどと、臆面もなく言えるはずがない。
指で入口を穿り、中まで、届くところまで挿入して柔らかくしてもらっていると自分から白状する真似を平然と行えるほど、慣れきった行為ではなった。
躊躇したのは、改めて施してもらう前戯の奇抜さに羞恥を感じたことと。仮に頼むのだとしたら、いつもの相手の指使いを事細かに伝えなければならないと察したからだ。
唾をごくりと飲み込み、乾いたような、そしてどこか濡れたような声音を絞り出した。
性交のやり方を忘れたと言った言葉をわずかに疑っていた事実など、すでに頭には残っていなかった。
「……あんたの、指で」
奥までほぐしてもらっている。
若干俯き加減で答え、臍を曲げた子どものように逸らしていた眼を歪めた。
「そうか」
にやり、とやけにはっきりした笑いがその口に浮かんだことは、当然のことながら、頬を染めていた自分には窺いしれなかった。
「これじゃ、てめェの面がよく見えねェな?」
背を向けたまま、丸太のような太さの男根に突き上げられながら、腹に響く地鳴りのような声を聞く。
息継ぎすら億劫で、ずっと呼吸を止めていた方がいくらか増しなのではないかと思う時間。
「…セックスってのは面白ェもんだと思ったが」
おれの勘違いか?、と問われる。
「面白ェかどうかはわからねェが、……」
語尾に少し勢いがなくなる。
「…おれは、嫌いじゃねェ」
あんたとの性交は。
正確には交尾の真似事であって、実際に白ひげの子を孕むわけでも孕めるわけでもない。
けれど、無意味だと感じない理由は、この行為に最初から最後まで満足しているからなのだろう。
「つまらねェのは、おれの責任だ」
あんたを楽しませてやれないのは。
自嘲ではなく常に感じていたことを端的に伝えると、またしてもにやりと大きな口が反り返るような弧を描いた。
-2011/10/18-10/21
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