押し潰されたような悲鳴が、狭い空洞から聞こえている。だがその大半は、鼻から漏れる嗚咽のような呼吸によって掻き消されていた。
捻じ込まれた固形を懸命に咽頭から逸らそうと試みているらしいが、本体を押さえられていては身動きも侭ならないらしい。
無理矢理押し付けられた股間から自身を引き剥がそうともがいていたが、力を行使するやり方が今ひとつ理解できなかったのか、早々に諦めてしまったようだ。
執拗な水音が立ち、まるでその部分を使って交合でもしているかのような錯覚を、聞く者に与える。
細い舌で男根の裏を辿ってはいるが、押し込まれた体積が大き過ぎて、妙にたどたどしく短い距離を往き来している。蠢いているのか、震えているのかもわからないような微細な動きだ。構わず、狭い器官へ目掛けて抜き差しを繰り返した。心情が伴わない、まさに唾棄すべき肉体のためだけの行為だった。そんなものには慣れているはずだが、強いているのが気に入りの存在であるのなら、例え瑣末なものであろうと罪悪感はある。しかしそれすらも、背徳に酔い痴れる材料にしかなり得なかった。高揚した精神が、体内に宿る何もかもを焼き尽くす。それを導き出したのは紛れもない相手だった。だからこそ、悪徳だと感じる心は希薄だった。
小さな口内を思う存分自身の雄で侵し尽くすと、やがて息を詰め、白い液を口腔へ吐き出した。
粘つく液が、赤い口中を無残に汚す。溢れる体液はすぐには途切れなかった。普段ならば体内に収めるべきものを、一滴残らず注ぎ込むようにして口を離させなかった。嚥下する最後までを見届けるように、括れを浅い位置で咥えさせたまま見下ろした。
体裁など、構っている暇はなかった。
「全部飲めよ」
霞んだような眼差しが見上げ、承諾したように顎を引いた。実際にはその箇所はなかったので、くぐもった音が喉の奥でしただけだ。
舌の上に乗せられていた粘液の塊が干されて見えなくなったのを確かめ、湯気を放つ異物を唇から引き抜いた。
唾液で濡れ、まだそこには相手の中に入っていた名残がある。外気に晒されることに抵抗がなくなるまでには、まだ余裕があった。
「…足りてねえな」
無残な台詞を吐き、荒くなった呼吸を継ぎながら呆然と下肢を投げ出して座り込んでいた身体を捕まえる。物を引っ繰り返すように簡単に押し伏せ、背後から脚の間を割った。
何をするつもりか、朦朧とした頭で殊勝にも気がついたのだろう。やめろと掠れた声を放ち、振り返りながら手や足を振り回す。しかし長さが伴わず、行動を制止させるまでには至らなかった。
貫かれ、白く汚された口が大きく開いた。音は漏れず、固まったような呼気が全身から伝わった。構わず、内側を割いて進んだ。長いナイフを受け入れた局所は、意図せず潤っていた。
「なんだよ、しっかり感じてんじゃねえか」
力付くで押し入ったことを自覚しながら、腹と背を密着させる。
「知らねえ…っ」
足をなんとか地面に付け自力で踏み留まろうとしているが、打ち付けてくる波に抗いきれず、徐々に地上から離れてゆく。前で突っ張った両腕も、頭部を押さえ込まれるような体勢に耐え切れず折曲がったままだ。
顔を土につけ、股間を高く上げさせられたまま敏感な局部を穿たれる。そこを守る防壁は何もなかった。表面に生えている大きなトゲは、その意味で言えばまったく役に立たない代物なのかもしれない。身を守るための備えではなく、ただの飾りと表しても過言ではない。今も体積を避けるように、あるいは受け入れるように、尖端部を斜めに倒して押し寄せる熱を受け止めている。強制的に及ぼされる動きに合わせて靡き、波に委ねるように前後する。それとも、これは肉体的な合意を暗に示しているのだろうか。
見た目はまったくの暴力だが、珍しく抵抗があるだけで、事の本質はいつもと変わらないのかもしれない。加える側が正当性を誤認しているだけかもしれないが、少なくともすべてを収めてからは向こうからの反論はなかった。
打ち付けられ、揺すぶられている間も、地面に頬を擦りつけたまま面を顰めているが、紅潮した頬には脂汗ではないものが浮かんでいる。しっとりと濡れているだけだった内壁も、動きを加える都度柔らかい蜜が溢れてきた。始まりは唐突だったが、これがいつもと同じ交合なのだということを、心か体のいずこかで理解しているらしかった。
「も、俺…っ」
荒々しい呼吸が世界を押し包んでいるかのような熱された二人だけの空間に、哀願するような細い声音が漏れる。
早く終わりにしてほしいと望むような、けれどまだ終わってほしくないような、切羽詰った声。いつもこの声調に煽られるようにして、腹に蟠った欲望が増すのだ。伝わってくる熱も動きも、すべてがこの場にいる二人以外には共有することはできないのだという、興奮の坩堝を体感する。
「おやびん…」
囁き、何度もその名を呼んだ。
結合部分から漏れる音が、更に加速を増したように連続する。
表皮を余す所なく触れ合わせるように、前身を屈して小さな身体を取り囲んだ。擦れ合い、一つになった場所で、発熱した熱量が倍に膨れ上がった。
吐き出し、相手が放出の余韻を手放すまでの間、ずっと繋がりを解かずにいた。
震える体温がこの腕の中にあることを、至福のように感じていた。
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