+ ハパチ。 +

07/hurachi

 忍び込んだ舌に弄ばれるように、上下に開口を繰り返す。
 頬は紅潮し、飽和したように溢れる吐息は二人分の熱を含んでいた。
 一回きりだと宣言したのは少々浅はかだったかと心なしか後悔を滲ませつつも、破天荒は更に口腔での交わりを深めた。
 厚い粘膜であまり広くはない口内を擦り、時には壁面に引っ掛けるように尖端を立てた。呼吸を次ぐ都度喘ぐ唇を貪るように塞いでは、空気も唾液も何もかも吸い尽くした。
 散々に口中を弄られ、これ以上相手に侵食されまいと追いかけてくる小さな体積がある。細くて、こちらほど厚みのない塊だ。わざとそこに同じ熱を絡めてすべて干しても構わなかったが、鬼ごっこをしているような心地に追われる側は心中で薄くほくそ笑んだ。
 接吻を交わすようになってわかったことだが、上顎にごつごつとした凹凸がなかったりと人間ほど複雑さはないが、首領パッチの持つ器官はそれと似た構造をしていた。粘膜の赤みが強いところや、つるつるした歯茎や狭い咽頭など、そのどれもが酷似している。
 ただ色彩だけは、やはり首領パッチの方が幾分濃いようだ。オレンジに更に赤を加えたような、鮮やかな色をしている。そういえば、体内もこれに似た色合いだったことを思い出す。
 不意に、股間の熱の高まりを意識した。自身の分身が、どくんとあからさまに脈を打つ。
 今まで首領パッチの全身を舐めることに専念していたが、無論放置していたわけではない。なるべく考えないようにしていても、凝縮した血管の束は明らかに次の刺激を欲していた。
 自分だけが知る相手の秘部を思い浮かべ、そこを再び味わえるのだという事実に眩暈を覚える。
 強かに液体で濡らされた首領パッチの中へは、何度突き入れても飽きることがない。体形自体が単純であり、関節がないのではないかと思われるほど肢体が柔らかいため、官能を受け取る側の感覚を鋭敏にさせているのは間違いなかった。
 存分に足を上へ引っ張り上げ、付け根を押し広げたまま根元まで深々と咥えさせても、ごつごつとした骨の感触を得るわけではない。弾力も質量も十二分にある身体は、思うに任せて腰を打ち付けても壊れないのだという信頼を増長させ興奮を際限なく引き出した。
 まるで、実感のある抱き人形のようだと。
 もし一抹であってもそう感じているのだと知れたら、相手はどんなに不快な顔をするかわからない。
 けれどそれを連想してしまうほど、異種族間で行うセックスは想像以上の悦楽があった。まともな人間に興味を抱くことはないだろうと半ば高言できるほど、つまりは首領パッチに溺れていた。
 心どころか体までも。
 だがそれも、背徳を伴った実感というわけではなかった。
 そういう運命にあったのだと思えば、自分にとって大した問題ではない。首領パッチと初めて交わった時から、わかりきっていた事実だった。
 自分はこの人なしではいられない生き物なのだと。求めることを知らなかった時分こそ、有り得ない時間だったのだと思えなくもない。
 だからこうなったのは、むしろ必然なのだ。

 身じろぎをする度に、向こうにもこの存在が知られていてもおかしくなかった。
 怒張し、今にも襲い掛かってきそうなほど、首領パッチの下で猛々しく反り返っている。
 上部での交接に専心していたが、頭を擡げた雄が相手の滑らかな皮膚の上を意図せず突いたりしていたのは無論故意ではない。
 そういえば、男根が膨らみ始めた辺りで、逃げることを諦めて覚悟を決めていたような節があった。
 風呂場へ突入してからずっと全裸だったので隠しようがなかっただけだが、そういうところで距離を測っているのかと思うと、おやびんも結構好き者なのかととんでもないことを連想してしまう。それが単なる拒否反応であっても実際困るが、太くなった男根が原因だとの予想は恐らく外れていないだろう。
 濃厚な口付けを交わしながら、そっと抱きしめた先の左手の居場所を探る。
 指先だけで細い腕の線を辿り、剥き出しの肩に添えられた掌を取った。
 手首を捕らえ、ようやく自由になった口元を拭いつつ胸で大きく呼吸を繰り返す顔を覗き込む。
 いつ見ても決して見飽きることのない、深くて鮮明な空の頂上の色が視界に広がった。
「俺のここを、おやびんの手で撫でてくれますか?」
 何を言われたのか判然とせず、請われた側は頓狂な顔つきになった。
 ここ、と示された箇所をちらりと一瞥する。
 即座に、目線が元の位置へ返った。いつのまにか倍化した物体を、直視するのに堪えられなかったと言わんばかりだ。随分な反応だなと思いながら、破天荒は了解の是非を尋ねた。
 高まる緊張で汗した分、大分溶けてはいるが、それでも首領パッチの手袋の内側には茶色い筋がいくつも付いている。白い表面にぐちゃぐちゃに溶解した油分が擦れて、ずっと不快感を抱き続けていたはずだ。
 その汚れた部分で自身の持ち物を愛撫するよう懇願すると、え、と躊躇うような表情で見上げてきた。困ったように、眉根が寄せられる。
 だって、汚いんだぜ?と問うような目付きを投げかけられた。
 それをくっつけたら、元々汚れていない部分まで一緒に汚くなるのは目に見えている。しかし、破天荒は構わないと許諾するように頷いた。言葉で説明するより、そうして欲しいことを動作で示す。首を振り、次いでにっこりと目を細めた。
 すると今度はまじまじと顔面を凝視され、流石にこれは無茶なお願いだったかと思った。
 かと言って、その小さな掌を自らの汚液で更に汚したいのだと正直に話したとして、果たして受け入れてくれるのか。ほとんど賭けに近い提案だったが、拒絶されるのならば素直に諦めるつもりだった。
 強引に腕を引っ張って握らせるのは簡単だが、首領パッチの身体を例え一部分とはいえ痛めつけるのは流儀に反した。
 苛むならもっと別のところを、というのは余談だが、要するに無理強いをするならこんな前戯如きでは御免被ると思っていたのだ。単に首領パッチの不興を買うことを恐れているだけだが、滾った欲望を中途半端で放り出されるのだけは勘弁願いたい。
 少しだけ首を傾げて思案するような素振りを見せると、やがて首領パッチは自分の足元に眼を落とした。
 明らかに身長差のある二人が今までくっついていられたのは、高度を維持するために、背の足りない方が浴槽の大きな蛇口に足をかけていたおかげだ。
 湯の切り替えを行う機材の幅が広く、小さい靴を引っ掛けることが可能であったため、破天荒がしゃがむことなく身体を押し付けていられたのだ。
 口腔を弄ばれていた時はその肩に手をかけていれば済んだが、作業が下部へ移動するなら下へ降りた方が無難だと考えたのだろう。
 もう一度先刻の体勢を取ろうと目線を傾けたところを見計らい、命じられるよりも先に、破天荒はその場へ丸い身体を下ろしてやった。
 今度は足ではなく直に腰掛けさせ、安定を図る。
 やはり後方へ向かって生えた大きなトゲが邪魔をして、座った姿勢では幾分前へのめってしまう。お世辞にも、安定感が頗る良いとは言い切れない。
 それでも他にこちらとの均衡を図れるような場所がないと諦め、落ちてしまわないよう逆に壁際へ首領パッチの上体を押し付けた。
 距離が狭まり、他人の熱い皮膚が相手の前面に密着した。

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