異なる体温が間近に接し、触れている下肢もまた無防備に眼前に晒される。
引き締まった太腿が目の前に迫り、動きを封じられた側はひええと内心汗した。
通常の生活ではあまり意識しないが、破天荒の腿は人並以上には逞しい。両方合わせれば、余裕で首領パッチの胴回りと同じ太さになる。そこについている一物は当然のことながら期待を裏切らない質量と体積を有していた。多分、他人に誇れる程度には、立派な張りと形をしている。
ごくり、と迎える者は固唾を飲んだ。
破天荒なる子分は首領パッチにとって、突出した人材ではない。ハジケリストとしては、発展途上どころか初級も良いところだが、これだけはそのすべてを圧倒するほどの存在感があると思った。
初めて男が勃起した様を目にした時は心底ぎょっとしたし、表現し難い生き物だということだけは理解できた。地上にこんな生物が存在していたとは!と、どこかで研究に明け暮れている博士か研究者並みに驚愕した。もし生身の人間がすべてズボンの中にこんなものを隠し持っているのだとしたら、とんでもないことだとも思った。
首領パッチは、これはコイツだけどコイツじゃなくて、絶対夜中とか俺たちの見ていないところで破天荒の身体から分離して悪さをしているんじゃないかと考えていた。ギャングに扮して駄菓子を強盗とか、出された食事でピーマンだけを残すとか、物凄いことをしているに違いないと無責任に確信していた。
だからこそ、侮るわけには行かねえ…。
怖怖と。だが確実な興味を持って、首領パッチは頭から湯気でも出そうなほど反り返った太い塊に手を伸ばそうとした。
握ってみれば、もっとその存在に近づけるだろうと考えた。意気込みは、むしろ冒険家のそれに近い。けれど、なぜか片側だけが引っ張られ、到達できたのは相手に言われた左手だけだった。
なんだなんだと思う脳裏で、上方へ引き寄せられた右腕の先が、突如温かなぬめりに触れた。
びっくりして顔を上げると、右手の指がぱっくりと根元まで食べられていた。視界から隠されるようにして口の中へ含まれた箇所から、舌鼓を打つような音が聞こえる。ぴしゃりぴしゃりと、水飛沫を浴びせられているような水の音が。
「だから、俺の指は食いモンじゃねえっつ…っ」
吸われる度に、身体がびくりと面白いように跳ね上がる。それに倣うように、語尾が裏返るのを止められなかった。
言ってから、そういえば右手が一番ひどく汚れていたことを思い出した。その所為で、他の場所より念入りに掃除をしてくれているのかと考えた。気が利く奴と思い、責めるのはやめにした。折角の親切心を、無駄にするわけには行かない。
とはいえ、いつまでもそこを離そうとしないのであれば、こちらは本腰を入れて動くことができなかった。丹念に拭ってくれているのは嬉しいが、それにしては執拗だし、一回に限っていると言っても時間が長かった。
片手の自由を奪われた形でしばらく黙考していたが、何だか考えがまとまらず、早々に思考を放棄した。
とりあえず頼まれた奴の相手をしてやるかと腹を決め、色の濃い肉の先っぽから根っこにかけて上面を撫でた。
すると、びくんと蛇のような型をした棒が撓った。
驚き、反射的に目を見開いたまま首を竦ませた。けれど、自分にはその部位がないことに思い至り、引っ込んだ面をそろそろと近づけた。
び、びびらせんじゃねえよ!
心の中で毒づきつつ、どきどきしながらも、むうと相手を睨む。
それくらいの刺激では足りていないと主張するかのような動作に、首領パッチの中で対抗意識が芽生えた。
そっちがその気ならと、今度は五指を広げて握り込む。
しかし、思ったよりも胴回りがあった。長さが足りず、中途半端な位置で指が食い込む。だが実際には、押さえる程度の効果しか上がらなかった。それほど硬質だとは、傍目から知ることはできなかったからだ。
かちかちじゃねーか。
しかも、この上もなく熱い。
オリハルコンもびっくりだぜと感嘆し、そういえばと、頭上の気配を思い出した。
向こうはまだ、遊ぶように指を弄り続けている。三本全部咥えられていると思ったが、今は一本ずつ分けてに唾液を塗りたくっているようだ。別に気持ち悪くはないが、流れる水滴が肘まで伝ってきてなんだかむずむずする。まだ温かいそれは、かなり気になる代物だった。
想像が連鎖を引き起こしたように、つと思い付きだけで首領パッチは鼻先を寄せた。破天荒の前へ、自分から近づく。もはや、何も考えていないのは明白だった。
「っ…にげ!!!!」
含んだ途端感想を漏らし、顔を背けた。
片方の腕を固定されていたので、思ったほど距離を開けるまでには至らない。動ける範囲を狭めている張本人は、上からその挙動を面白そうに眺めている。わずかな汗がその肌には浮かんでいたが、余裕綽々といった観が無性に腹立たしかった。
もしかして、負けてねえか?
憤然とそう思うと、汚名挽回を果たすべく首領パッチは行動に出た。
亀の頭のような天辺を避けて、他の所に舌を伸ばした。
おやつのアイスバーを舐める要領で、適度の硬さを維持しながら舌尖を大きく動かす。火傷するかと思ったのは気のせいで、実際似たような熱さの粘膜で触れていれば違和感を抱かずに済んだ。
リズム良く、首領パッチとしては常にないほど丁寧にそこへ愛撫を施した。
舌では届かない部分を添えた左手で摩りながら、何回も上下を往ったり来たりした。動きに集中していると、先端から滲み出す苦味が舌を伝って味覚を覆っていることも苦にならなかった。
しばらくの間同じ動きを繰り返しているうちに、眼下で添えてあった掌も大分濡れてきた。唾液とそれ以外の液が混ざり合って、どちらとも判別のつかないもので汚れている。このくらいで充分かなと思い、一息吐くために顔を離すと、自身の指が解放されていたことに気がついた。
持ち上げた右手は、他人の唾液で照り光っていた。けれど、もう黒い染みは見当たらない。石鹸みてーな奴と思いながら、その顔を見上げた。
「さんきゅ」
綺麗になったことに対して礼を言う。
どういたしましてと、相手は幾分紅潮したような面を見せながら微笑った。
そのまま行為を続行しようと短い舌を伸ばしたところで、ひょいと身体を持ち上げられた。
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