「その時、おやびんは何て言ったんです?」
掌で脇腹をゆるく撫でさする。
労わるような仕草に、少しだけ緊張が解れた。
ぶるぶると小刻みに震える体の下から、やっとの思いでか細い息を吐き出す。
「何すんだよ…、やめろ、って…」
「でも、そいつはやめなかったんですね?」
「ん…っ…!」
肯定の代わりに短く声を切って目を瞑る。
顔の表面はすでに赤く染まり、汗の粒が浮かんでいた。
「それから、どうやってそいつは動き出したんですか?」
どういう動きで翻弄していったのか。
「わ、わかんね…」
呼吸の合間に言葉を搾りながら、いつの間にか揺れ出した腰の動きを堰き止めるように、突っ張った腕に力を込めた。
ゆらゆらと波打つように、窮屈な圧迫が下腹を襲う。
「ああ。おやびんは突っ込まれた途端、思考が働かなくなるんでしたっけ」
あんまり気持ち良過ぎて。
例え挿入されたのが亀頭の部分だけであっても。
揶揄するような台詞とともに、にこりと上に重なった男は笑ったようだ。
意味深な笑みではなく、純粋に感度が優れていることを喜んでいるような素振りだった。感じ過ぎるのはある種の病気とも捉えられるが、首領パッチならばと褒めているようでもある。しかし、その真意が本人に伝わることはなかった。
下肢から滲み出す愉楽に精一杯抵抗するかのように、懸命に机を握る手に力を加えている。縋っているような、文字通り支えにしている風でもある。
じゃあ、俺が代わりに教えてあげます、と一言告げ、徐に男はその鍛えた腰を前へ突き出した。
接合部分に負荷が加わり、更に結合が増す。けれど、抜き差しを繰り返すように前後に揺れる動きは変わらない。
脇を支えていた両手で背後へ引き戻され、がくがくと首領パッチの下肢が大きく揺れた。濡れた感触が、内側にも外側にも溢れる。
襲ってくるのは、不確かな感覚だけではなかった。
途切れ途切れに細い悲鳴を吐き出しつつ、高まる鼓動とともに吐く息が熱い。
脳が浮ついたように、呆とする。
心地良さに眩暈がした。
「それで、おやびんはそいつに中出しされちゃったんですか?」
尚も問いかけられ、覚束ない思考でそれを捉える。
「…っ…?」
汗に塗れた体躯を攻められながら、告げられた名称が示す意味がわからず、首を捻った。
先ほどから、相手の口調に変化はない。穏やかで、だが底冷えのする何かがあった。それが、獰猛な願望であることに気づくこともなく、首領パッチは貪られ続けた。
その頭上から、更に声がかけられる。
「生のコイツをここに突っ込まれて、腹の中に直接精液を吐き出されちゃったんですか?」
狭い空洞に濃い粘液をぶちまけられたのかと、丁寧な言葉遣いで問う。
身も蓋もない言い草に、常識的な反論は返ってこない。
穏やかな声調に促されるようにその光景を想像し、首領パッチは反射的に頬を染めた。体中に、深い色彩が広がる。
言葉にしようと思ったことは、だが形にはならなかった。
なぜなら、言わんとする意味合いについては合点したものの、自分が何を聞かれているかということを正確に知覚できなかったからだ。
なのに、声が出る。
質問に答えなければならないと、何かに責付かれるように音が外へ出た。
「そ、うだ…っ」
言ってから、ぼ、と体色の赤みが増した。
だらだらと、熱さからではない汗が、米神や額を流れる。
何でこんな恥ずかしいことを、促されるまま素直に白状しているのか。
襲ってくる快感に、神経が麻痺しているような気がした。
これも捜査協力の一環なのだと歯を食い縛り、必死に羞恥心を紛らせる。正しいことなら、躊躇う必要はないのだと。
「一回だけ?」
何回くらいやられたんです?、と問われる。
回数を聞かれても、首領パッチには具体的な数字はわからない。
ただ、ずっと中に居座られたことだけは覚えている。出て行ってほしいと思った時にも、そいつはしっかりと体内に居場所を得ていた。
それは勃起していた時もあったし、粘ついた液を出し終わってからも、休憩がてら、股の間に留まっていたような気もする。
異物が収まっているという物凄い違和感が、長時間あったように思う。自身の一部になってしまったのだと勘違いをしてしまうくらい、弄られ、貫かれたことだけが強く印象に残っていた。
「…聞き方が悪かったですね」
抽挿の合間に一拍間を置き、声をかけた者は尋ね方を変えた。
内側から無理矢理掻き出された蜜が、細い足を伝った。
ぶるりと、知らず背後のトゲが小刻みに震える。
「おやびんは、何回行ったんですか?」
そいつに突っ込まれて、何度絶頂を味わったかを尋ねる。
これなら答えられますよね、と目だけで男は微笑っていた。
その様を視界の隅で捉え、首領パッチの全身が真っ赤に色づいた。火照ったように、眼に見えない蒸気が脳天から立ち昇る。
「…何回、行っちゃったんですか?おやびん」
ねえ、と促される。
声音に甘さがあったわけではないが、強引に催促されているのは間違いないだろう。
人で言うところの聴覚器があるはずの位置に、息がかかる。それが極端に熱されていることに、びくんと表情が引き攣った。
ぎゅ、と双眸を瞑ってしまいたい衝動に襲われながらも、ぱちぱちと何度も大きな瞬きを繰り返した。
「あ…」
ちゃんと答えなければと思いつつ、下肢を穿ってくる熱にどんどん理性が食い潰されて行く。
答えることを要求しているのに、さっきから少しも休む気配がない。上で動かれている限り、まともな判断などできないことは充分承知しているはずなのに。
下半身からも急かされるように、思考も意思も、何がどこにあるのかすらわからなくなる。首領パッチの頭の中は、すでに混乱の極みに達していた。
返答がないことに気を悪くしたような素振りも見せず、むしろ頗る上機嫌であるらしい男の両目の下が、ぐっと持ち上がった。
打ち付ける腰を休ませることなく前後に動かし、力の入らなくなった首領パッチの尻を更に引き寄せた。
途端、潰れたような粘着質な水音が立った。
「俺が知っている限り、五六回は達ってましたね?」
いや、それ以上かな?、と頓狂な声を出す。
揺すられている間に、そこにわずかな隙間が生じたのか、首領パッチの胸というか腹に巻いていた乳バンドのホックが外れた。
球体の表面からずれ、ぱしりと小気味良い音とともに真下の地面に落ちる。
薄いピンクの、頭に被ったパンツとお揃いのお気に入りの一枚だ。
けれど、そのことに意識を割いている余力はなかった。少しでも余裕があったら、立ち上がって取りに行けたはずだ。秘蔵の下着を、どうして見捨てることができよう。仮にも下着泥棒を名乗っているのなら、何としても死守するのが、世界三大変質者の一人を称する者の取るべき行動であったはずだ。
しかし、下肢を突き刺し捕らえた者は、それを許さなかった。
残骸となって落ちた物になど眼もくれず、前へ屈した体から粘つくような吐息を吐き出した。
「おやびんの中、物凄く気持ち良くて、俺も何度も行っちゃいましたっけ…」
際限のないくらい昂って、散々に貪りつくしたと明言する。
事実、異種族間の交合であるというのに、この人間と自分の肉体的な相性は抜群だった。欲しいと思う所に的確な攻めを与えられ、愉悦に突き動かされるように噎び泣く頃には、相手の昂ぶりも最高潮に達している。繰り返し腹の中に欲望を射出されても不快ではないくらいには、自身も同じ回数の快楽を得ていた。
甘ったるい声質が、普段の素っ気無い態度と何もかも違って、ぞくぞくと肌を粟立たせる。
「おやびんのここ、目一杯濡れてて、俺のを出し入れするのが最高に気持ち良かったなあ…」
当時の感触を思い出すように、陶然と赤い光を宿した双眸を細める。
そして付け加えるように、今も最高ですけど、とはにかんだ。
ん、俺も、と知らず応答が口を突いて出た。
最高だと言われたことを、自分も感じていたと臆面もなく告げる。
恥ずかしいとか、何馬鹿言ってんだ!、とか。異を唱えるはずの自制心は、すでに脳内のどこにも残っていなかった。
「おやびん、好きです…」
囁かれ、いよいよ持って極限が近くなる。
覆い被さった影も、逼迫したように徐々に速度を増した。
食い込んだ生身の肉が互いの放出した体液にまみれ、汚され、卑猥な音を止め処なく周囲に響かせる。
「お、……れもっ……!」
びくんと大きく上体を震わせて、一際深い部分に圧迫を感じた瞬間、理性が弾け飛んだ。
それとともに、体の奥から濃密な蜜が溢れる。
どこからか何かが噴き出すような感覚に、我を忘れて没頭した。
混交した二人分の肉欲が、狭い筒を満たす。
記憶も自我も、すべてを吹き飛ばすような衝撃に、無意識に大きく口を開いた。深い嘆息が、雄を収めたおのれの奥地とその口元から漏れ、自身を押し包んでしまうかのような錯覚があった。
抱きしめられ、絞るように股間の口を窄めた。応えるような仕草に、腕を回した側がわずかな微動を見せる。快感の余情を伝えるように、中に収まった肉の塊もぶるりと身を震わせた。脈打つ鼓動が、まるで一つになってしまったかのような永遠を感じる。
深淵と思しき陶酔の中、囁く声がある。
名を呼ばれ、夢現のまま、微笑が首領パッチの面に刷かれた。
零れた液が無数に滴っていることさえ気にならないほど、放出を受け入れた者は絶頂の余韻に没入していた。
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