■ Beyblade ■

雑文 ■

 鳥を見るとカイを思い出す。青い空を飛ぶ、それが何者であろうと気にはならない。カイは鳥だ。側で近く、眺めることは出来ない。
 好きなもの?
 ない。
 嫌いなもの?
 ありすぎて答えない。
 無防備な居住まいでいながら、決して心は明け渡さない。惹かれるのは、多分自分もそれと変わりがないからだ。似ているから気になる。似ていて違うから戸惑う、知りたくなって、手を伸ばす。
 火傷するのを知りながら。指の肉をついばまれるのを知りながら、それでも如何。わからないかな。わからないよな。自分自身でさえ持て余す衝動。
 内側から膨れ上がるのは好意で、それ以外余計なものはついていない。まだ純粋で、そして素朴な感情。今はそれ以上は必要がないんだ。いつでもほしがることは出来るから、性急にことを成したいとは思わない。
 だって、思いが通じても人倫を侵すことになるんだぞ?
 時が熟せば自然と与えられるものを、無理にもぎ取ろうという気にはなれない。
 好きなのはカイだ。
 掛け替えのないのもカイだ。
 裏切られても無視されても、絶対変わらない思いを抱かせるのも、カイ。
 思いあがり。錯覚、幻覚、精神的患い。
 色んな言葉で遮られても、拒まれても。気持ちはまっすぐまっすぐ天に昇る。人は上に向かって立つから、下でくすぶらせるものなど何もない。
 誇り高いカイ。
 分け隔てのないカイ。
 強くて、前向きで、迷いを内に秘めるカイ。
 気取らせないよう、弱さを悟られないよう、懸命に自身を奮い立たせる、その姿勢が大好きだ。俺も見習わなくては。俺も負けてはいられないと。
 好きだ。大好きだ。
 いつでも視界に納めておきたい。小さな変化。睫毛が動き、わずかの感情を示す、その仔細さえも目に留めて。
 捉えて、ずっと。側にいたい。
 離れていても、好きだ。
 天蓋の青を見上げる度に呼吸する。
 吐息となって吐かれる思いが、そのまま空気を伝って届け、カイの元へ。
 俺の中にある真実。誰にも妨げられることも偽ることもない、たったひとつを。
 すべて捧げる。全部、カイのものだ。
 俺の存在理由を、全部、カイに捧げる。


「余計なものだ」
 久しぶりに耳にした声。
 生身の、身近に接することの出来なかった鳥。地上にいるのに、遠い恋人。再会の挨拶もそこそこに、いきなり思いを告げ続ければ嫌な顔をされても仕方ないかもしれない。いや、実際仕方ない。なぜなら、相手がカイだからだ。
「手に余るくらいが丁度良いんだ」
 わけのわからんことを。
 呟く唇の小さな動き。ほの赤い部分の血色はそれほど悪くはない。普段から良い方ではなかったが、肌の肌理もいつもどおり。掌を取って血流を見れば、もっと内臓器官のことまでわかったのだが。握手をするため差し伸べられた手を叩き落とされる。正確には、交手の代わりの一瞬のタッチ。
「元気かどうかなど下らん。元気でなければここにはいないだろうが」
 主治医でもあるまいし。勝手に心配事の種にされて不平そうだ。立場がそうはならなかったが、自立しているつもりなのだろう。相変わらず、だ。
「会えて嬉しい。カイはどうなんだ?」
 再会した感想は。
「”うるさい奴がまた一人増えた”」
 それだけだ、と。
 嘘ばかり。カイにとって本当にうるさいのはBBAではたった一人だろうに。
「わかった、自重する」
 両手を軽く持ち上げて掌を晒せば、苦笑が浮かんだ。上空へ向かって立ち昇る気持ちは、ちゃんとカイにも伝わっているようだ。それはそうだろう。だってカイも俺と同じく、迷いのない意思を地上から天上へ奮い立たせる者だからだ。
 誇り高いカイ。天空にいて、独り飛びつづけることをやめないカイ。
 俺は首に縄を括り付けて、それを手繰り寄せようとは思わないけれど。
 いつも見上げている。
 自由を象徴する空にはいつまでも、縛り付けられないカイがいる。
 それが、俺の世界。

 守り通す、存在の意味。

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