雑文 ■
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旧正月を終えたばかりのここは大陸の森の中。 今日も元気だ修行が熱い!牙一族の村は子供たちの熱気で溢れていた。その中でも特にヒートしている熱血虎は言わずもがなの金李。間違っても『カネスモモ』とは読まないでくれ!(笑) ドライガーの牙は今日も研ぎ澄まされているぜ!ガッツポーズをして滝のある野外での早朝トレーニングを終えた後、不意に長老に呼び止められた。 「何やらエアメイルが届いておったぞ、金李よ」 「どこからですか、道老師」 恐らく日本国以外にないと思うのだが、冷静にそんなことを聞いてみる。ちょっぴりどきどきわくわく、お目当ての人物の顔が頭を掠める。 「日本からじゃ」 案の定、この前移籍してきたばかりの国からの手紙らしい。わくわくがもう少しだけ大きくなった。 「誰からですか」 「ひ」 その一言でどきどきは加速を増し、凄まじい砂埃を残して白い虎の姿は雲に掻き消えた。年長の者は大切に、という儒教の教えはこれっぽっちも動物脳の中には植え込まれていなかったらしい。さすが、半分は食べ物に頭を支配された虎…! カイが俺に。何だろう、嬉しい。もしかしたら相談かな。だとしたら真面目に聞いて答えてやらなけりゃ!無理だけど!!(笑) 色んな妄想に脳内で嵐を巻き起こしつつ、李は喜び勇んで長老の館の中へ入った。相変わらず何もない平屋の中に、無数の箱が縦に3列横に3列並んでいた。外見は二階があるように見えるのだが、下から上る入り口はない。つまりは近くの岩場からでないと入れない長老の私室があるのだが、そんなことは今問題ではない。合わせて計9つの箱が目の前に重ねられていた。9。大陸ではとても縁起の良い数字だ!これは幸先良すぎなのではないか、と虎の頭に再び桃の花が咲いた。 ひょいひょいと箱の上に飛び乗り、国際小包(エアメールとちょっと違います老師)の名札を見つけ、その送り主の名前に相好が崩れる。 やっぱりカイだ!何だろう、俺に贈り物なんて。 とりあえず名札を確かめた一番上の一番右の箱から開けてみる。触った感触ではあまり重たいものではないらしい。テープを破り、面倒くさくて間を割り割いたところから、なんともいえない甘い香りが立ち上った。いわゆる美味しそうな香り。むむ、これは待てよ!?ぴくぴくと鼻を動かし、李は緊張に走った面持ちになった。 「どうしたのさ、李兄」 みんなの中からいなくなった兄の姿を探しに、妹分のマオがやってきた。部屋にかすかに流れるお菓子の匂いに首をかしげる。良い匂いだから、きっと他の連中もここへやってくるだろうなと思いつつ、李はマオを手招きした。 「マオ、ほら、チョコレートだ!」 箱の中に押し込まれた包みの一つを取り上げて、眼下の少女に投げて渡す。掌にとすっと落ちてきた軽いものを摘まみ上げ、くんくんと少女は匂いを嗅いだ。 「んん〜〜、いい匂いがするぜ〜〜」 後ろに現れたお馴染みの面子の気配に、マオがわずかに硬直する。ちょっと違う世界に旅立ってしまっていたらしい。またたびじゃないのに何でだろう、と思いながら、少女は兄からもらった包みを奪われまいと胸に抱いた。 「みんなにもやるよ。荷物を運ぶのを手伝ってくれ」 おう、と威勢の良い掛け声とともにみんなが箱を持ち出した。 「中のチョコレートはみんなで分けてくれ。平等に行き渡るようにだぞ」 わいわいと群れてくる仲間の姿を眺めながら、マオはそっと李の近くに寄ってみた。満足そうに両腕を腰に当ててふんぞり返っているけれど、大事なものじゃなかったのかな。少女は探偵の眼をしていた。 「みんなにあげちゃって良いの?李兄」 荷札を見たところどうやら火渡カイの文字が載っていた。手紙も入ってなかったのかなと思いつつ、なのに至極ご満悦な兄の姿は少しおかしいように思えたのだ。 「ああ、いいんだ、マオ!」 えっへんと胸を張る。そんな姿もかっこいいと嬉しくなり、そっか、と少女は納得した。さすが一族のリーダー格。説き伏せる(?)力も並じゃない! すっかり空になった箱を同族のライと一緒に片付けながら、やはり少女同様少年も気になっていたらしい。 「すっかりなくなってしまったが、おまえの分はないのか?李」 良ければ自分の取り分を、と差し出されるきれいな包みに、しかし兄弟は頭を振った。 「俺の分ならもうある。それはおまえが食べてくれ、ライ」 中身のチョコはみんな、BBAチームにとファンの女の子たちから送られたものだろう。これらは皆李の分であったので、わざわざ送ってくれたのだと思う。ただ、なぜか異様に多いのは、きっとカイ宛ての分も混ぜてあるからだ。甘いものは食べられないから押し付けたんだろうな、とは思っても、李は口にはしなかった。 歓声を上げて甘いチョコを頬張る仲間の姿を眺めながら、こっそり後ろ手に隠した小さな箱を見る。 カイの匂いが一番よくついているものだ。きっと、カイ本人が送ってくれたものだろう。これは俺のものだ。何せ俺宛てなんだから。 にこにこと喜色に顔面が崩れてゆくのを感じながら、じっくり匂いを嗅いで、嗅覚でも視覚でも触覚でも味わってから一思いに食べようと心に誓う。誰が見てもちょっと変態行為(笑)。いいじゃないか、嬉しいんだから! 届いた荷物は、Vデー当日、某カッフェーで甘味攻撃をされた帝王によって、これ以上は食えんと退けられたブツだったというのは、また別の話(笑)。 |
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