ここへおいでよ。
部屋に入るとお目当ての人物が不在。
ホテルを出ていった気配はなかったから、絶対どこかにいるはずだ。
許しもなく部屋をとぼとぼ歩き回る。
やがて耳に聞こえる水の音。
水は嫌いだ。
熱いお湯に浸かるくらいなら冷水の方がまだしも。
上がってから体を拭くのも面倒だし、髪をかわかすなんて持っての他だ。
だから自分には極力縁のないと思いたい場所。
でも、いる。
そっと隙間から覗き見る。
濡れそぼった肢体。
湯気に浮かぶ上気した肌。
早鐘を打つ鼓動。
空気の流れから、やがて視線がこちらに移り。
「何か用か」
雫の滴る前髪をひと掻き。
水滴が指先を伝って落ちた。
駄目だ、と思った。
非礼も詫びず、引いてゆく湿度を無視して本音が洩れる。
「俺も入っていいか?」
きさまがか、と心底驚いた声が届く。
やがて広げられる腕。
抗いがたい眩暈と陶酔。
こみ上げる笑みと、期待感。
「ただし生身はご免だ」
でかいねこ見参。
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