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無題003

 ここへおいでよ。

 部屋に入るとお目当ての人物が不在。
 ホテルを出ていった気配はなかったから、絶対どこかにいるはずだ。
 許しもなく部屋をとぼとぼ歩き回る。
 やがて耳に聞こえる水の音。
 水は嫌いだ。
 熱いお湯に浸かるくらいなら冷水の方がまだしも。
 上がってから体を拭くのも面倒だし、髪をかわかすなんて持っての他だ。
 だから自分には極力縁のないと思いたい場所。
 でも、いる。
 そっと隙間から覗き見る。
 濡れそぼった肢体。
 湯気に浮かぶ上気した肌。
 早鐘を打つ鼓動。
 空気の流れから、やがて視線がこちらに移り。
「何か用か」
 雫の滴る前髪をひと掻き。
 水滴が指先を伝って落ちた。
 駄目だ、と思った。
 非礼も詫びず、引いてゆく湿度を無視して本音が洩れる。
「俺も入っていいか?」
 きさまがか、と心底驚いた声が届く。
 やがて広げられる腕。
 抗いがたい眩暈と陶酔。
 こみ上げる笑みと、期待感。
「ただし生身はご免だ」

 でかいねこ見参。




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