Gensoh-suikoden2 ◆ 駄話


「カミュー」
「なんだい、マイクロトフ」
「今日は七夕だ。願い事は考えてあるか?」
 モチ、とばかりに親指グッ。
 間違っても食べるお餅ではない。
「そうか、俺もだ」
 親友の答えに満足げな青木氏。否、青騎士。
 がさり、と懐から短冊を取り出す。
 色はやっぱり永遠ブルー。
「俺の願いはこれだ」
「興味深いね」
 しげしげと相手の手元を見る。
 手袋、そろそろ脱いでも良いのではなかろうかと思いつつ。
「騎士として、成人男子としての願いはただ一つ」
 ざ、と追い風が吹き荒れる。
 ちなみに室内。密閉状態。
「オーダーせずとも買える服がありますように!!!!!」

 束の間赤騎士、目頭を抑える。
 感動しているらしい。
 小刻みに震える肩は、笑いのためではない。
「素晴らしいよ、マイクロトフ」
 というか、頭が素晴らしいよ。その短絡的(?)回路。
「理由を尋ねてもいいかな?」
 涙を浮かべた長い睫毛をしばたたかせつつ、きりりと真面目な眼差しをあらぬ方向へ投げかける親友に問う。
 その、おかしな回答の出所はどこですかい。
「うむ」
 こっくりさん。狐とはあまり縁がない元団長の頷き。
 顎ががつんと甲冑に当たる。
「俺は図体がでかいからな。ぴったりと合う服には事欠く身だ」
 だ・か・ら。
 表情を変えず、机の上に置いた拳から人差し指を立ち上げて横にふりふり。振り子打法。
「是非とも大きい服が置いてある店と出会いたい…!」
 オーダーせずともその場で服を買える店。
 そうだね、と美貌の剣士は破顔する。
 親友、身長超人並み。
 絶対誓ってもキン肉万太郎以上。
 もしかしたらセイウチンくらいあるかもしれない。
 いや、チェック・メイトなんかすでに眼下モノかもしれない。
 それはいいね。夢みたいだね。
 カミューの頭の中では、マイクロトフはすでに富士山を見下ろしている。
 素敵だよ、マイクロトフ。
 思い続けて何万光年。
 はっきり言って、マイクロトフのためなら何だってする。
 というか、し過ぎるきらい、キラキラ。
「私もおまえが『あ、これはいい』と言って試着室に行ったまま、帰宅できるところを拝んでみたいよ」
 うむ、と再び黒い頷き。
 ただ心の中で、お代は払え、とツッコミは忘れない。
「俺も、いちいち巻き尺で身体の寸法を測られない身の上になりたいものだ」
 少しはにかむ精悍な顔つき。
 見るな。目の毒だ。
「そういえば」
 ぽんと親友、手を叩く。
「ゴルドー様の行き付けの洋服屋はラージサイズも扱っているらしいよ?」
 がたん、とはにわ、動く。
 いや、トーテムポール始動。
 本当か、と目を見張ってくる親友に満面の笑み。
「そこならきっと、マイクロトフの夢も叶うよ」
 行ってごらん、とにこやかスマイル超ド級。
 ただ今真夜中0時過ぎだということ、すでに眼中になし。
 マイクロトフのためなら、そう、何だってする。
 どんな無責任なことでも現在進行形が良ければ順風満帆。
 世の中の不条理なんか、地獄の業火で焼いてポイ。
 奴は本気だ(笑)。
「ああ、行ってみる。ありがとう、カミュー!!!!!!!」
 さようなら、愛しい人。
 赤いハンケチをひらひら閃かせ、部屋のドアを蹴破って走り出した影を見送る。
 本当に抱きしめて東京湾に沈めてしまいたいくらい、かわいいなあ。
 本気でそう思う、自分も滅法初々しいな、と思ったかは謎である。


 翌朝、肩を幾分落とした大魔神。
「何かあったのかい、マイクロトフ」
 大股でゆっくり近寄り、青ざめた頬を覗きこむ。
「俺の夢は潰えた……」
 それだけ言うと、親友は私室のドアに消えた。
 あとから泣きじゃくる(?)本人から口八丁手八丁で聞き出した話によると、眠る店の主人を叩き起こして(不法侵入)商品を試着させてもらったところ、どの服も無駄に幅があるだけのダボ服だったらしい。
 ガバガバな服から覗く、マイクロトフの長い四肢。
 想像し、悦に入る理性を叱咤し、それは残念だったね、とご愁傷様の念。
 机の上に頭ごと突っ伏した親友の掌を拾い上げ。
「これからは、おまえの服は私が作ってあげるよ」
 四本の指の節にそっと接吻。
 恨めしげに寝不足の眼を上げる愛しい人。
「ああ。俺にはカミューしかいない」
 ぱったり。熟睡モード。
 虚無の只中に突入した友人の手を甲斐甲斐しくも撫でさすりまくり、騎士の鑑ナンバーワンダフルの美剣士は新たな誓いに胸高鳴らせる。
 フリルとか、ミニとか作ろう。

 赤騎士の願いはただ一つ。
 マイクロトフの願いを叶えてあげること。

 ロックアックスは伝説の土地。


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2002.07.05up/2005.10.20改稿

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