+ Gensoh-suikoden2 +
駄話 ■

 今日の行軍はマチルダ変態組が加わっていた。
 新同盟軍盟主的に、Sレンジは『先(S)に死(S)んでくれレンジ』であり、Mレンジは『み(M)っともねえ生き恥さらすんじゃねえレンジ』で、ついでにLレンジは『ルックスが(L)良いからって調子ぶっこくんじゃねえレンジ』だと解釈している。
 その、先におっ死ねコンビの中でも更に低空飛行から大気圏まで突入できそうなのが、例の二人だった。具体的に名指しにすることすらおこがましいというか、人間やめたくなるというかなので敢えて名前は出さないが、要するにそういう人たちが今日の戦闘には加わっていた。
 盟主は朝から機嫌が悪かった。義姉がいないために『ぶる』必要のないということが一番に腹立たしかったのだが、ほぼ同位に奴らの生き様が非常に目障りだった。
 そして更に輪をかけて、今日のお弁当は冷奴だった。しかも、それだけが弁当箱に入っている。ぎゃははと笑い狂わないだけマシだったが、暗黒の息吹はじわりとこめかみの当たりからにじみ出始めていた。
「う、カミュー。すまん」
 箱を開けるなり隣の顔を振り向く。文句は一つも言わないが、マイクロトフはかなり食べ物の好き嫌いが激しい。というよりも、好きなものがダントツすぎて、その他のものが必然的に好きのランクから下降してしまっているらしい。
 中でもとりわけ肉の味のしないものが駄目らしい。つか、一日1回は欠片でも肉を口にしないとどうにかなるという噂だ。盟主は晴れやかな気分でいっそどうにかなってくれ、と祈った。
「仕方ないね、マイクロトフ。おまえも少しは食べないといけないよ」
 諭されぎこちなく頷くが、4分の5ほどは相手に処理してもらいたいと思っているようだ。計算が間違っている、とは周囲に誰もいない荒野の上では自分以外にツッコミを期待するだけ無駄だった。
 マイクロトフは和食が苦手だ。魚についてる鱗もあまり好もしく思っていないらしいし、野菜がまるまんま皿の上に乗っていたらそれだけで三途の川とお友達になっていた。肉味のドレッシングを、とわけのわからない注文をしたこともある。だったら年がら年中鶏がらのスープでも携帯しておけ、と茶目っ気一抹で提案したところ、喜んでハイ・ヨーのところへ突入して行った。その後、天下無敵の料理人と謳われたハイ・ヨーが天国に召されたと聞いたが、盟主はあんまり気にしていなかった。
 カミューは変人…いや、恋人に頼られ、まんざらどころか鼻の下が伸びていたが、いつものことなので違和感はなかった(笑)。これも甘いマスクの一つなのかは知らないが、相変わらずキラキラとビックリ@ンシールの天使ヘッド並の輝きを放ってマイクロトフに微笑みかけている。
 仕方がないとかなんとかいいつつ、相手の弁当箱に箸を入れる。ここからここまでは自分が預かるから、残った部分は処理するようにと七三分けした。
 頼んだ手前、カミューの言うことは聞かねばならない。決心したマイクロトフは、一口にしては大きい形に冷奴を割ると、次々と口の中へ投げ込んだ。無味に近い代物を長い間味わっていたくないための処置だが、子どもっぽすぎる。盟主は内心自分はこいつらより遥かに大人だ、と自らを誇らしく思った。
 3口で今日の昼食を食べ終わると、隣で喜喜として冷奴を小さく割って割って食べている親友を見る。わずかに首を傾げて見守っていたが、ついに好奇心に負けて口を開いた。
「なぜそんなに細かくして食べているのだ、カミュー」
 薄気味悪いことを、とは言わなかったが眉の潜め具合は汚物を見るとの同等だ。かなり辛辣な態度を取られていることを気にも留めず、にっこりとその汚物は美しい容貌をさらに煌かせて答えた。
「小さくした豆腐」
 にやり。
「マイクロトフ」
 ……………。
 一瞬、瞬時に意味がわからなかったことを盟主は神に感謝した。ありがとう!と叫んだところで何のことかわかってしまった時点で、すでに終わっているということはこの際無視だ。ついでに、奴の顔の下半分が猛獣のように獰猛な笑顔になっていたということも、もはやどうでも良い。
 その後、頬をほんのり肉色に染めたマイクロトフに、この馬鹿が、とダンスニーの角で殴られ、地面と一体となったというのは、カミューのラブラブ日記にものの見事に書き止められたかどうか。そんなことまで輝く盾の紋章は知らない。


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2002.10.14up