second generations ◆ 伝説の遺伝子-


「ケビン。あんたに特記すべき潜在能力があるかどうか、データ収集を試みた結果を聞いておくか?」

 寝起きに朝一番。というか、朝なのだから、寝起きなわけで。
「クロエ」
 声の主をじっと見詰める。毛布の下、上半身裸の目覚め。別に悪くはない。悪いのは、凝視した視線の先に見慣れた顔があることだ。
 なぜか馴れ馴れしく、クロエの肩を抱いている自称『保護者』。保護というか、邪魔以外の何ものでもない。
「なんでそいつと一緒にいる…」
 しかもバックに快晴の空という絶好のコンディションの中。
「細かいことをいちいち気にするんじゃねえよーっ。肝っ玉が小せえと思われるぜ〜っ」
 偉そうに脚を組んで侵入者は吐き棄てる。ムカつきはしないが、邪魔邪魔邪魔。どこかの子ども番組のパジャマでなんとか、を連想するほど同じ単語が脳裏を埋める。
「ロビン一族に伝わる遺伝子情報を解析するために、JC『キン肉マン』の1巻から10巻あたりまでを探ってみたのだが」
 約2名の間で心穏やかならぬ電波がびしびしと張り詰めている最中も、クロエの沈着な声が響く。
「ロビン一族の遺伝子?」
 朝っぱらからいやなものを突き付けられたようで、自然声のトーンがひとつ下がる。常に臨戦体勢を保持してはいるが、覚醒後はやはりわずかに苛立ちがある。しかも、寝覚めに見た景色が最悪だったから尚更だ。
 何が悲しくて、クロエを遠ざけられているわけだ?
 理不尽な憤りが若干なきにしもあらず。
「ああ。ヒーローオリンピックで活躍していた頃から、サー・ロビンマスクの行動その他を解析してみた」
「その頃は確かまだ『サー』じゃなかったがなあ」
 クフフフ、と横目でクロエの表情を窺いながら、卑屈な笑いが鼻から洩れる。ニヤニヤと、横槍を入れるのがさも楽しそうだ。クロエは端から無視しているのか、馴れているのか、膝の上に乗っけられた画面を見ることに集中している。
「で、結論は?」
 どうせ公表するくらいなのだから、回答が出ているのだろう。勿体ぶらずに口にするだろうが、念のため先を促す。
「最低だ」
「……………」
 予期しなかったこととは言いがたいが、実際目の前の心を許したっぽい超人の口から(見えないが)聞くと、想像の万倍以上の衝撃が走る。ショックで髪が数本抜けてもおかしくないほどの、閉口。
「根拠は」
 結論と銘打つくらいなのだから、そこに至るまでの理論があるはずだ。クロエは勘で勝負するような粗野な性格ではない。スカーフェイスのような思いこみの激しい、自分で自他ともに暗示をかけるようなわけのわからん奇術を使うわけでもない。ならば、その過程は。

「一、食わせ者っぽい」
 いつかどこかで聞きそうな言葉。
「…ヒーローオリンピックの予選試合で解説に呼ばれておきながら、まともな解説をしていない。理解不能の片言だけで、本人はギャグと認識しているのかもしれないが、それくらいならいない方がマシ、という見解だ」
「地じゃねえのか」
「……………」
 まるで自分のことを言われているような気がして、居心地が悪い。悪くないわけがなかったが、悪い。

「二、思いこみが激しい。…オリンピック決勝戦でキン肉マンに偶然マスクを取られたことには同情するが、それが元で理性をなくして非道なファイトに移り、これでいいのだ、と本人は思っていたあたり」
「救いようがねえ」
「…………………」

「三、盗人。…決勝でキン肉マンに敗れ国外追放になった先で野望を棄てきれず、妻アリサのもとを去ったとき、一緒にバッグに入ったお金まで持って逃げたこと」
「………………………………」

「最悪だ」

 最後、なぜか二人の声がはもった。もちろん、カウチに一緒に腰掛ける超人二名の声。
「どこらへんが紳士的なのか俺にはわからねえぜ〜っ」
 揶揄ではなく、心の底からの疑問。スカーフェイスは本気で理解不能の体。クロエは脇を一瞥してから画面をもう一度見た。
「関係ないことだが」
 補足。
「オリンピック決勝で、ロビンマスクのトレーナーをしていたこの超人」
 映し出された画面を、スカーフェイスが首を伸ばして覗き見た。近すぎる。汚ない顔をオレのクロエに寄せるんじゃねえ。
「多分、オレの親ではないはずだ」
「…………」
 スカー、だんまり。
 しばらくして。
「安心しな、クロエ〜。おまえは立派にオレの娘だぜ〜っ」
 どう。
 どうしたら娘になるんだ、クロエがおまえの。
 わずかにしなだれかかった肩をぽんぽんと優しく叩き、励ます。一体どういう関係なんだ、おまえたち。
「さらに、次のオリンピックでのロビンマスクの行動については、言うに及ばず」
 ちらり、と視線が蒼いマスクの超人に投げかけられる。同情、というか、何というかな感情。
 キン肉マンとウォーズマンの名勝負の背後で暗躍していたバラクーダなる人物を指しているわけだが。痛い。痛すぎる。


「最低だ」

 またもや二人の意見が異口同音。
 悪行超人もびっくりだ、とはスカーの言。
 私怨の鬼、とまでクロエは言いきる。
 立つ瀬がねえ。

「というわけで、ロビン家の遺伝的潜在能力は」

「最低最悪」

 今日は不貞寝だ、とケビンは思った。


back ** next
2002.02.24up

Copyright(C) PAPER TIGER (HARIKONOTORA) midoh All Rights Reserved.
materials by Kigen