ス家ー…。 スカー家、一家団欒の時。 「クロエが旅立ってしまってから幾日経つのか。寂しいですね」 「(旅立ってねえっ)」 「幸せじゃと良いのじゃがのう」 「じゃが?じゃがって、肉じゃがのことか!?」 「(頭ん中食い物のことしかねえのかオメーはっ!)」 心中細やかなツッコミを織り交ぜつつ、スカー親父は黙々と新聞を読んだ振り。 悪行一家(元、も含め)は総勢4名。親父、母、伯父、祖父の2世帯住宅。正確には洞穴の中。調度はなぜか、古き良き時代の日本家屋の居間。狭いながらも卓袱台を囲んでの一時。共通する話題は一人娘のことくらい。連帯感など無に等しい会話が繰り広げられる。 食後の一服。席の前には各々の湯のみが置かれ、煎れたての湯気が立ち昇っている。 「幾日ってオメー、単に挨拶に行ってお泊りするだけじゃねえか」 「でも、このまま永久にお別れするかもしれないということもあり得るでしょう」 「永久(とわ)の別れみてえなことを言うんじゃねえ。縁起でもねえだろうがっ」 「正義超人の家ってそんなに怖いところなのか?」 「飽くまで噂だが、何でもそこ彼処がわけのわからない論理で埋め尽くされているらしい。私もあまり、出入りをしたことはあるようでないが」 「うむ。理解不能の園じゃろうな。正義超人の家というのは」 奴らは昔からそうじゃった、とおじいちゃん回想突入。何となくみんな無視した(笑)。 『にゃ。』と書かれた鳶色の湯のみを口元に運びつつ、スカー親父は少々苛立ち気味。かわいい娘のことを持ち出されると、常日頃余裕のない生活をしているというのに、さらに輪をかけて窮窮の体。だから結婚は反対だったとお決まりの台詞がポロリ。 「愛し合っている者同士が一緒になるのは世の常です。スカー」 「(愛し合ってねえだろっ!!!)」 「クロエは全然そんな素振りはなかったと思ったけどなあ?」 「(そうだろそうだろ!恐竜、良いこというじゃねえかっ!)」 「物言わずきっと思ってたんだろうな。一緒になりたいって」 「(思ってねえっっっ!!)」 「元来無口な子でしたからね」 なるほど、でオチつくところを飛び入り参加。 「おまえら本気でそう思っているわけかよーっ!?」 スカー親父、思わず新聞を越えて大声張り〜の。 あっという間に視線が集まり、ぼつぼつ体に穴をあけた。 「クロエはなあ、アイツはなあ、ケビンとの結婚は絶対望んでいねえんだよーっ!」 「根拠はあるのですか?」 言った側から、つらっと返される。カツラ、ではない。 チェックお母さんが、物珍しそうなガラスの瞳でじ〜ろじろ。正気の沙汰とは思えない、という目線。スカー親父のプライドは少し傷ついた。 「当たり前じゃねえかーっ。オレとクロエは血こそつながってはいねえが、本当の父娘だぜ。アイツのことはオレが一番わかってんだよ!」 「では尋ねますが、スカーフェイス」 左側に体をひねり、真正面から親父を睨む。 「あなたはクロエの好物を知っていますか?」 問われたことを理解するのに0.5秒。 答えが出たのが1秒後。 「カツオブシだろ」 ブーッ。 どこからか不正解音。キン肉ス@ルのお@らではないようだ。 「違います」 「んなわけはねえっ!ガキの頃から毎日カツオブシ食ってたぞ、アイツぁ!」 「クロエが好んでいるのは『カツオのたたき』です」 ずがーん。 スカー親父、わずかにブレイク。 「かっ変わらねえじゃねえかーっ!!!」 「全然違うというものです。ねこに与えるねこまんまではないのですから、カツオブシ、というのは食べ物の名前ではありません。それにクロエはお醤油よりお味噌で合えたものが好きです。これもあなたの知らないことです。スカー」 スカーん。 ハート型に胸の板が打ちぬかれる衝撃。その頃もサンシャイン祖父は回想しっぱなし。レックス伯父は茶菓子を全部食べ終えた!(笑) 「か、関係ねえーっ。好物がちょっと違ったくらいで、オレとクロエの親子の関係はちっとも揺るがないぜーっ!」 「スカー。少し汗をかいているようですね」 「……………」 「顔色も少し悪いようです。熱でもあるのですか?」 「……………」 「大丈夫です。何はなくともあなたがクロエを育てたという事実に嘘偽りはないのですから」 「オレと、クロエは…」 うう、と親父の目にも涙。 自分に比べれば娘との付き合いは短くても、所詮母親には適わないのか、と打ちひしがれ。 「とにかく私はクロエの幸せを切に願っていますよ」 「あ、当たり前だぜーっ!!!」 「ケビンマスクのご両親とうまく行くとよいですね」 「ケビンマスクの両親って誰なんだ?」 「サー・ロビンことロビンマスクです。レジェンドの中でも一目置かれる人物ですね」 「そんなに偉い奴のとこなら食い物一杯食えるだろうなあ」 「確かに食べ物には困らないかもしれないですね、スカー…」 「……あれ?お父さん??」 置き手紙。 ちょっくらロンドンのジェット・コースターに乗ってくらあ。 親父は人知れず離脱した(笑)。 |