+ second generations +

駄話[--] ■-

 白いシーツの波の上に四肢を這いつくばらせたまま、引き締まった下腹に相手の臀部を引き寄せる。距離を詰めては打ち返すように、深く内部に形を覚えさせれば、今にも擦りきれそうな喘ぎが耳を打つ。鼻ですすり上げるように短く鳴き、押し付けられる圧迫に悲鳴を放つ。首はうなだれているのに、大きく一定のリズムで突き上げられる振動によって反りあがり、その都度多量の汗が空気に散った。
 もう4度、クロエの下肢を侵しているが、時折責め苦に限界を超える悦楽を与えられるのか反射的な静止を促す言葉を聞くことはあっても、行為続行の停止を訴えることははない。肌を通して薄々察していたが、どうやら身体が欲しくてたまらないというのは本当のようだ。
 そうこう考えているうちにも、クロエの内側が脈打つ楔を欲しがって動きの淫猥さを増す。嬉々として迎え入れる思考回路は、そのほとんどが快楽の渦の中に飲まれているのだろう。こんなことは、これまでになかった。
 つながっている部分から、熱く染み渡るような充足感が全身を満たし、脳に直接刺激を与える。クロエも、自分も、相手の愉悦のために従属している。どちらかがより多くの益を得ているわけではなく、同じ秤の上で同一の愉楽に身体も心も没入させている。
 まるで、念願が叶ったようだとさえ錯覚するほど、切に。
 フィフティ=フィフティ。
 互いに遜色ない土俵の上に立ち、欲望をさらけ出しているのではないかと。それは、肉欲でありながら明らかに肉体だけの慈善事業ではなかった。思いがそこに伴われているから、と考えたとしても差し障りのない、淡い期待を抱かせるには充分な”芝居”。これがもし真実打ち解けた行為であったのなら、あらわになった肌の至るところに汗を光らせたクロエのしなやかな体躯を引き寄せて、耳元に思いを呪言のように囁き続けていただろう。
 セックスの最中、内側から沸き起こる衝動に任せて思いを言葉に上らせてしまいたいと思ったことは、数回では利かない。事実口に出してしまえば、受け入れてくれることもあっただろう。麻痺したような思考回路に、さらに痺れを促すだけの代物を流しこまれたとしても、実感など湧かないままに”自分もだ”、とおぼつかない口調で囁き返して。
 欲するのは、そんなその場限りの相槌ではない。クロエの口からも、直接同じ単語を聞き出したいし、できることなら唇を奪って上からも侵したい。
 一見容易いとさえ思える関門は二つ。
 ひとつは、クロエが自分の好意を”同種”のものだと受け入れてくれるかということ。そして輪をかけて難問なのが、素顔さえ晒して愛し愛されたいと願うかどうかということだった。
 ケビン自身にとっては難解な問題ではない。
 欲するものに手を伸ばすことに、端からためらいも禁忌も感じなければ、自身を偽ることこそが問題だと思考する。常に”良識ある本能”に正直であること。それが血筋の誇りでもあり、自身の正当な”流れ”だと思っている。確かに、父親が背負う正統派ロビン家の家名には反発を禁じ得ない。だが、ポリシーとして自然と備わった”本筋”である家訓というものに関しては、些かの抵抗もない。超人としての人格と信念は別のもの。誰に強制されたのではない、人として持ち得るべき良識の類いを逸脱することを『畏れる勇気』ならいくらでもある。だからこそ、相手の心情を汲んで手をこまねいているだけの現状も腑に落ちないものであれば、限られた者に対してだけ素顔を見せたいという気持ちを抑えているのも、然り。
 ただのセックスなら、服を脱ぐだけで済む。だが、もし、それが価値あるものであれば。
 すべてを取り払って、全身のすべてでつながりたいと願望するのは異常なことではない。

 舌を奪いたいと思う。
 文字通り、”下”だけでなく。
 唇を奪い、唾液を注ぎこみ、干したい。
 鼻筋に軽くそれを押し当て、瞼の上に口付けたい。

 マスクに隠された造型など、どんな形をしていようが興味がない。頬を捉えて、鼻先を寄せて。体を肉体で磔(はりつけ)にしたまま、奥の奥にまで侵入を果たす。臓器のすべてに、自分を覚えさせたい。
 願うのは罪か。拒むのが道理か。
 滾らせる下半身の欲求とは別のものが苛立ち、炎を吐く。粘液を纏いつつ、摩擦によって昂ぶったものが緩急をつけて相手を揺さぶり、追い詰める。

 クロエの眦に浮かぶ水滴に、思わず緊張の糸がほぐれた。

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2002.05.05。