ぬらぬらと濡れて光る太い肉の棒が狭い入り口を出入りする。
水滴のようなそれが血であることにショックを覚えながら、それでも腰の動きを止めることはできなかった。
先刻から李功の口からは、言葉にならない断続的な喘ぎ声しか聞こえてこない。
時折呼吸が途切れ、揺さぶりながら腹を突くと、思い出したように喉を逸らせて肺に空気を取り入れた。
苦しいのかと尋ねることもできたが、そんなことは訊くだけ馬鹿げているのだろう。
自分よりも大きなモノの体積を受け入れて、分厚い筋肉で尻を叩かれる度、焦点の合わない眸と開かれた口元が形を崩し、無様に歪んだ。
辛くないわけがないだろう相手の苦痛を少しでも何とかしようと、汗だくの米神に指を這わせる。
包み込むように掌全体で耳と髪を覆い、顔を近づけた。
引き寄せられるように口付け、全身を強く抱きしめる。
中で何かが軋んだが、構わずもう一度口付けた。
ふと、李功の瞼が薄く開かれた。
先ほどよりもわずかに正気の光を取り戻し、長い睫毛を震わせて視線をこちらへ伸ばした。
「っ、…心配、すん…な、よ」
絞り出すような力を込めて、乾いた喉から李功は声を出した。
今も治まらない律動に犯されながらも、赤みが差した頬にはうっすらと笑みが浮かんでいるようだった。
互いをつなぐものがようやくすべて収まったので、ほんのわずかだが余裕ができたのだろう。
「……ただ、………、誤算、だったのは…」
うん、と一回、大きく胸を逸らせる。
一度離れてから、背中に回した手に力を込め、耳と耳をくっつけてきた。
「こんな、……太いとは…思わなかっ、…った、ってこと、だ……」
途切れ途切れの聞き馴染んだ声が脳裏に届いた途端、頭が丸ごと茹で上がりそうになった。
下半身のことはそういえば、ほんの小さな頃から周囲の大人たちからも冷やかし半分、羨望半分で言われたことがあったが、今この場で改めて自覚させられると、居た堪れない気分になってくる。
これで相手を苦しめているのであれば、尚更だ。
「……昔から、知ってるだろ」
ぼそりと呟くと、ああ、そうだったっけな、と李功は当時を思い出して、汗で濡れそぼったまま、清々しそうな笑顔を見せた。
心配するな、とは、つまりはそういう意味だったのだろう。
傷が癒え、結合の違和感が薄らいでくると、相手にも自発的に動けるだけの余力が見つかったようだ。
正常位で抱き合っていた体勢から、上体を抱き起こし、深く和合の型を取る。
組んだ両足の上に李功が腰を下ろすと、両者の心臓の音がより近くで感じられるようになった。
互いの頭の中にあるのはすでに射精の欲求ではなく、拳士としての循環の法だ。
男女の交合であっても、同様に男は精気を体内で練るのが正しいやり方だ。
子孫を残すための生殖的な吐精は、その最も究極の位置にあり、極限まで高めた精力を濃くなった種とともに膣内へ吐き出す。女もそれを受け入れるための体の準備をしなければならないのが、房事の鉄則だった。
特に一流の勁の使い手ともなれば、数ヶ月も精を練り続けたまま房術を行い、見定めた日に膣へ着床させる術を心得ている。
優秀な子を残すための必然の方法であり、心身の修養の一つとも認められている。
しかし、今の自分たちにはその必要はない。
気を充分に練るだけで、収めたものから漲る精を李功の直腸のその奥に吐き出すことが目的ではなかった。
拳士同士の、射精を伴わない交わり。
けれど、と思う。
にも関わらず、この細胞の一片までもが感じている異様な昂りは、一人で行う自慰とは全く異質のものだった。
抱きしめている李功の体が温かい。
湯水のように湧き起こる豊潤な気が、触れた部分からどんどん内側を満たすように包み込んでくれる。
これは、あれに似ていた。
服の裏に仕込んだ封印の札を外した瞬間に感じる、自身の抑えていた大量の気が外へ向かって解放される興奮と、封じられていた力を自由に扱えることに対する破壊的な衝動に似た高揚感。そして、一種の危惧感。
違う点があるのだとすれば、これが他人の気によって感じられるものだという一点だけだ。
相手も同じことを感じていたのだろう。
腕の中の顔が上気し、心地好さそうに撓んだ李功の表情からは本来の厳しさが失われている。
手にしている肉体が深くなった結合に快感を覚えているのだと知覚すると、益々強烈な昂ぶりが全身を襲った。
腰を突き上げ、揺さぶり、もっともっとと責め立てる。
射精の欲求が頭の天辺から精巣を駆け上がり、尿道を押し広げる。
「あ、っ、あっ」
細かな抜き差しの動きに抗いきれず、緩められた李功の口元から律動に合わせた聞き慣れない声音が漏れた。
その声を聞き、反射的に身構える。
理性が壊れ、李功の深くに穿った自身の先端が暴発する、と思った瞬間、閉じていた両目を見開いた。
ばくばくと心臓が爆発する寸前の音が鼓膜を覆い、呼吸が止まる。
一瞬我を忘れたかに思えたが、ぎりぎりで踏みとどまったようだ。
射精直前の状態で男根を膨張させたまま、先端から透明な液を漏らす。
微量だったが、受け入れていた側は気づいたらしい。
何度かに分けて、精液ではない汁を体内に吐き出すと、李功もともに行ったらしい。
粘りのない水滴を垂らし、天を仰ぐように怒張した分身が二つの体の間でぶるぶると震えていた。
そしてようやく終わった。
初めての経験だったが、不思議と脱力するような疲労を感じなかった。
「……………」
抱きしめている体に何と声をかけるべきか考えあぐね、黒い頭の側でぱくぱくと口の開閉を繰り返す。
自分よりもはるかに遅れて、平素の状態を取り戻したらしい李功が、のろのろと顔を上げた。
濡れた前髪から覗くのは、少し眉間を寄せた、照れているような仏頂面。
「……思ったよりも、平気そうだな………」
李功の言う通り、疲れはほとんど感じていなかった。
精を放出していないにもかかわらず、表現し難い解放感があり、裸のままの四肢には昼間よりもエネルギーが満ち溢れているようだった。
むしろ、李功が指摘したよりも悪い状況にあると言える。
むずむずと言いあぐねていたことが脳内をあっという間に制圧し、いつもなら少なからず感じるだろう申し訳ないという気持ちをどこか遠くへ押し流してしまった。
目で相手の胸中を測り、そこに実行への障害がないと判断して、にこりと笑みを見せる。
「……体位、変えてもいいか…?」
「………………………………………」
閉口し、呆れたような目線が肌に突き刺さったが、すでに李功の体力が本人の有り余る気の力で回復していることは知っている。
その気になれば突き飛ばして結合を解くことも可能だったろう。
否だと言われても、食い下がる気ではあったが。
「………朝には帰れるように、……加減しろよ」
いくらタフだからといっても、際限なくやり通すなよ、と、年上らしく釘を差してくる。
精一杯不機嫌な顔を作っているようだったが、自然と頬が赤らんでいるのが李功らしいと思った。
-2013/10/10
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