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李功(りこう)という男、その逢瀬

「すごいな」
 凄く濡れてるな、と声に出すと、腰を抱えられていた側は途端に眉をひそめた。

「おまえが、……触り続けるから…、……だろ」
 李功の言う通り、片腕で腰を抱え込んで抜き差しをしていたのは自分だが。
「ああ。だから、おれも」
 下腹を突き出すように示すと、李功は怒るような顔つきになった。
「今回は怪我させたくないからな」
 時間はかかるけど辛抱してくれ、と少し息を弾ませながら答える。
 興奮はすでに何度も訪れているが、気を逸らすことで李功の後ろをほぐすことに専念していた。
 油を仕込ませて指を差し入れている間、狭い入り口を出たり入っていたりするのを目にするたび、これまでに感じたことのない衝動に何度も突き上げられた。
 自制心には自信があったが、さすがにこれ以上は耐えられそうにない。
 李功自身をかり首の部分まで下からするりと撫でると、さらに口から湿ったものが溢れた。
「自分で触らなかったのか?」
「……っ?」
 あれから自己処理をしていなかったのかと問われ、呼吸を詰めて、李功がぶるりと頭を振る。
 汗を含んだ黒髪がばらりと波を打った。
「…そんなわけ、ねー、……だろ」
 もう動かすな、という意味で、李功が手を重ねて来る。
 温かなぬくもりの下で頭をなでるようにして掌を動かすと、声を詰らせた。
「おま、えの、せい…で、……回数、増えた、くらいだ…っ…」
 包み隠さぬ物言いに気遅れを覚えながら、下半身の疼きゆえか、普段よりも一層素直な態度にぞくぞくとさせられる。
「黒龍の総帥が、そんなんじゃまずいだろ…?」
 門弟たちにそれを戒めるべき立場だろうに。
 意地の悪い質問だと思ったが、半分溶けたような表情の李功は正直なものだった。
「っでも、やめられ、ねえ………」
 そうか、と。
 高ぶりを隠さず笑みに乗せると、ごくりと李功の喉が鳴った。


 人の生命力はその精力に匹敵するというが、一概にそうとは言えない。
 けれど、李功の場合はそれらの次元すら飛び越えているのではないかと思う。
 両足を掴んで開き、存分に緩めた李功の奥に雄を宛がう。
 ゆっくりと肉を分けて押し入ると、一瞬引くような動きを見せたが、上体を逃げられないように押さえ込んで距離を進めた。
 ずぶ、ずぶ、と進度が深まるにつれて、李功の理性が一つずつ剥がれて行くようだった。
 反射的な抵抗は本能的なものだったが、力ずくでこちらを排除しようとしていないので気にはならない。
 けれど、その都度、無理矢理抱いているような錯覚を覚えて、再び要らぬ興奮が興るのを余儀なくされてしまう。
 二度目の交合を、何回夢に見ただろうか。
 前回よりも早く、李功の喉奥から聞きなれない喘ぎが漏れる。
 まだ激しく抽挿を繰り返しているわけではないというのに、深く収まっただけで極まっている部分があるらしい。
 あれから数週間が経っていたので無理もなかったかもしれない。
 覚えたての性交に没頭することを懸念した梁の気持ちもわからなくはない。
 突き上げて来る激しい性的欲求が、ぐるぐると腹に溜まり、獣じみた衝動で全身を突き動かす。
 眼前の姿態をおかす動きが加速する。
 この瞬間だけは、自制も抑制もプライドもすべて脱ぎすてられると思った。


 裸の背中を抱き起し、たっぷりと手指から腕を伝って汗に濡れた肌を味わうように抱きしめた。
 達したばかりの李功は時折痙攣しては、はあはあと肩で息をしている。
 他人の精を腹に受け入れ、顔を赤らめている姿は気の強いいつものそれではない。
 快楽の余韻を味わうように、幾度も深いため息を吐いては腰を動かしていた。

「始終気持ち好さそうだったな」
 李功の髪を梳きながら、最中には聞けなかったことを意地悪く問う。
 意識が正常に戻ってきたのか、肩に頭を預けたまま、ふん、と李功は鼻を鳴らした。
「…おまえの方が、よっぽど、…気持ち良さそうな顔してたぜ…」
 感じていたものすべてを包み隠さなかったことを言っているのだろう。
 あの奔流のような時間の中、表情を繕っていられるほどの余裕などあるわけがない。
「らしくなかったか?」
「……………」
 白華の師範が聞いて呆れると思ったのかと問う。
「………おれは、嫌いじゃねえけどな」
 臍を曲げたような声音が李功らしい。
「…こんなに、…違うのは、……きっと、おまえの顔の所為だ……」
 誰と、とは言わなかったが、自然と思い当たる名が浮かんだ。
 嫉妬しないつもりではいたが、むかむかとしてくるのは自然な流れだ。
「……好きな奴が相手じゃなきゃ、おれだってそうさ」
 形の好い頭を大きな掌で撫でながら、遠くに視線を流すことで覚えそうになった苛立ちを透かす。

 おまえとは付き合いが長いようで短いけど。
 李功がぽつりと言う。
「………………………恥ずかしいな」
「………………」
 それは、お互いに初めてだから仕方ない。
 二人で頬を上気させながら、深く、回数を重ね、二度目の逢瀬を味わった。




-2013/10/19
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