李功との関係を知られ、二ヶ月が過ぎた。
当初は私室に籠って静かにしているつもりだったのだが、白華拳の師範が病気でもないのに無駄な時間を浪費することなど、状況を知らない者たちが許すはずもなく。
数日の空白期間を経てすぐにこれまで通りの執務に戻され、門弟たちに稽古をつける普段通りの役割を果たす破目になった。
早朝の演習と、高弟たちへの修練の指導、そして白華の村を見回ることと、それから――
唯一違うことと言えば、大道師も最高師範の梁も、そして自身も、あれほど親しかった黒龍拳の李功の名を口にしなくなったことだ。
顔色が優れなくなったという自覚ならばある。
口元は笑っているのに表情そのものが曇っていることも。
声色は変わらないのに口数が減った事実も。
気づけば嘆息ばかりが漏れる。
意識していないはずなのに、一人きりになるとどうしても。
未練だとは思ったが、それほどまでに相手の存在は大きなものであったらしい。
白華に関わること以外の、私的な相談事を持ちかけるべき者は誰なのか。
日常の中の些細な喜びを伝え合いたいのは誰なのか。
辛いことも苦難も、言葉を交わすことですべての柵から解放されて楽になれた。
ただ一人に会えないと言うだけで、息をする、生きる、という動作であらわされる、自由という意味そのものを失ってしまったかのように錯覚してしまう。
ふと、まだ暗い朝に目を覚ました。
こんこんと、誰かがドアを叩いている。
性急すぎる早さではなく、音量も小さく、静かなものだったが、なぜか自分はそれに反応した。
裸足で寝台を降り、簡素な一枚布の寝巻姿のまま靴を履いて私室の入口へ向かう。
用心深く、ではなかったが、かすかな音とともに扉を開いた先で待っていたのは。
李功。
声は出なかった。
喉の奥の空気の振動が響くことはなかった。
深い霧の中に浮かんだ白く整った懐かしい相貌を、茫然と見下ろすことしかできなかった。
-2013/12/16
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