オヤジ、なんて名前で他人を呼ぶ機会があるなんて思いもしなかった。
今も、そしてこれからも変わらないだろう呼称。
だからおれは誇らしげに呼ぶんだ。
少し声が上ずることもあるが、気づかれてはいないはずだ。知られていても構わないと言えるはずもなく。
あんたを前にしたら、恥も外聞も何もない。或いは、その全部がある。
素のままでいられる。極自然に。意識することなく。
あんたは何も言わないで見ていてくれるが、おれにとっては大した変化だ。
あんたが引き合わせてくれた新しい大勢の仲間たちが、今のおれの生きる意味そのものになっている。
何も言わずにその場に佇んでいるだけで、すべてに納得することができる。
だからあんたは。あんたや仲間たちは、おれが守るはずだった。取り柄のない、ちっぽけなおれにできるのはそれだけだと。
守ることすらできなくなって。その術を奪われて。苦しいだけだったおれに、最後に与えてくれたおもいが悔いや後悔を一遍に濯いでくれた。
何も持たずに行ける。それがおれの人生のすべてだとしたら、思い残すことはなにもない。