「そろそろ、おれの方の準備をしねェと…」
言いながら体をずらして膝の上から降りようとしたが、二の腕を掴まれて引き留められた。
「……?、オヤジ」
「一人でやんのか?」
いつもはどうだったのだと、普段は厳しさを湛えた目を細めて見下ろしてくる。
一瞬、何を問われたのかわからなかったが、その答に窮を感じた。
あんたに擦ってもらってる、などと、言えるわけがない。
指で入口を穿り、中まで、届くところまで挿入して柔らかくしてもらっていると自分の口から言うことは、さすがに躊躇った。
躊躇したのは、改めて施してもらう行為の奇抜さに羞恥を感じたことと、もし頼むのだとしたらいつもの相手の指使いを事細かに伝えなければならないと察したからだ。
唾をごくりと飲み込み、乾いたような濡れたような声音を出した。
性交のやり方を忘れたと言った言葉をわずかに疑っていた事実など、すでに頭には残っていなかった。
「……あんたの、指で」
奥までほぐしてもらっている。
若干俯き加減で答え、臍を曲げた子どものように逸らしていた目を歪めた。
「そうか」
にやり、とやけにはっきりした笑いがその口に浮かんだことは当然のことながら、頬を染めていた自分には窺いしれなかった。
「これじゃ、てめェの面がよく見えねェな?」
背を向けたまま、丸太のような太さの男根に突き上げられながら、腹に響く地鳴りのような声を聞く。
息継ぎすら億劫で、ずっと呼吸を止めていた方がいくらか増しなのではないかと思う時間。
「…セックスってのは面白ェもんだと思ったが」
おれの勘違いか?、と問われる。
「面白ェかどうかはわからねェが、……」
語尾に少し勢いがなくなる。
「…おれは、嫌いじゃねェ」
あんたとの性交は。
正確には交尾の真似事であって、実際に白ひげの子を孕むわけでも孕めるわけでもない。
けれど、無意味だと感じない理由は、この行為に最初から最後まで満足しているからなのだろう。
「つまらねェのは、おれの責任だ」
あんたを楽しませてやれないのは。
自嘲ではなく常に感じていたことを端的に伝えると、またしてもにやりと大きな口が反り返るような弧を描いた。