「あんたは、黒い髪の女が好きなんだろ…?」
「……………」
自分のように波を打ったような形が好きなはずだ。
それから、
「顔にそばかすのある女がいいんだろ」
呆れたような面で見下ろされる。大方、何を言い出すのかと思っているのだろう。
「生憎とおれは、女じゃねェが」
一目瞭然のことを淡々と。
平然と口にしただけのはずだった。
ごんっと盛大な音が船中に轟いた。
なんだなんだと宴会で賑わっていた大食堂から、大勢の屈強な男たちが顔を出す。
「マルコ、何かあったのか!?」
皆が皆、一様に眉間を寄せて、船内の状況を具に把握する一番隊隊長の姿を探す。
船長の身を案じた仲間に、船体の縁にもたれ掛かったひょろ長い面は、しれと言葉を返した。
「オヤジはエースとお楽しみだよい」
先刻の大きな音と結びつかないが、一先ず自分たちの親とも慕う大人物の体調には問題がないようだ。
ぼさぼさに髪を伸ばした男は珍しく、くく、と口元だけで笑った。
「エースの奴が、面白くてよい」
どうやら覗き見宜しく、この場にいながら事のあらましを大方理解しているらしい。だが、それを悪趣味だと口を尖らせる者はいなかった。
「なんだ、オヤジを怒らせたのか」
ぱちくりと瞬きをし、上目遣いに背後の相手を見つめる。
上からの衝撃は確かにあったが、頭頂と繋がった箇所の痛みは気にならなかった。
元々、火でできた人間だ。悪魔の実の能力の中で、自然系と表されるだけはあり、痛覚などの感覚が長い時間継続すること自体が滅多にない。
殴られたのは初めてではないが、頭の真上から拳骨をもらった経験など今までになかったし、仲間たちがもらう場面に出くわしたこともなかった。
もし機嫌を損ねてしまったのであれば、いつものように、アホンダラと一言で一蹴すれば済むだけの話だ。
「???…何か、おかしなこと言ったか?」
わずかに眉間を寄せて首を傾げる。
男は明らかに憤っていたが、理由を答えることはしなかった。
「間違ったことは言ってねェ」
ぶっきら棒にへの字に結んだ唇を大きく歪める。
「だが腹が立ったんだ、」
グラララ、と地面を揺るがすような低い声調をしばらくの間部屋に響かせた。
「この世に女を抱きたくねェって奴は少ねェだろうし、」
その容姿に拘る奴もいるだろう、と説く。
腹に男の一部を咥えたまま、不思議な面持ちで耳を傾けた。
「けど、いつおれがてめェを『代用品』にしてると言った?」
「!!!」
瞬時に相手の言わんといている情況を悟り、心情を正直に吐露した。
「…………言ってねェ」