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白エー短文(草稿)

 なぜ、おかしてしまわないのだろう、と思う。
 至極勝手な言い分だが、あの男ならば目の前の敵を倒すよりも容易いだろうことを、いつまでも躊躇っているのだろうと思う。
 初めから。
 いや、最初からと言うには語弊があるかもしれないが、男にはどこかに感じるものがあったはずだ。
 敵にしておくのは惜しいのではなく、生命を奪えば後悔をすると認めたわけではなかったが、欲しいと男は確かに口にした。
 仲間として手に入れるだけの価値があると。
 事実、この船の誰もが納得した実力と器を兼ね備えた逸材だと認めることができる。
 エースは、自分たちに未来という名の夢を与える存在だった。
 だが、それだけではないものを。
 自分たちが抱いたものとは異なる記憶を掴んだのだろうということは、昔から片腕を称していた自身だからこそ感じ取ることができた。
 仲間たちも、親と慕う男を知っているからこそ、淡い変化というものを感じていたかもしれない。
 違う景色を、エースの中に見ていることを。

 なぜ、犯してしまわないのだろうと思う。
 まだ青い姿態を組み敷いて、力ずくで体に刻みつけてしまわないのだろう、と。
 白ひげという名前を、背中のマークだけでなく、その全身に刻んでしまわないのかと。
 ものを奪い、道なき道を切り拓く海賊に、好機を狙い、潜む術など必要ない。
 時を見て、活路を開こうとするのは普通の人間の生き方だ。
 海の王者と畏れられた強者に、それらの選択肢はない。
 だからこそ。

 屈託なく。
 しかしわずかな影を潜めて笑う日に焼けた顔を見つけては、繰り返す。