どうやらしられてしまったらしい。
いつものように、何気ない日常のあれこれを話している最中に、何の違和感もなく切り出された。
本当なのか。
疑問符で終わるべきはずの言葉は、幾分冷静な確認を含んでいた。
誰が耳打ちしたのかは知らないが、無粋なことをしてくれたと思う。
プライバシーなどあってないような船だが、親に対してはそれなりの敬意を払うべきだろう。尤も、それをしないのも海賊らしいという輩もいるだろうが。
曖昧に濁すことなく、ゆっくり、無言で頷くと、相手はかすかに目を顰めてから押し黙ったようだ。
そこに明らかな嫌悪感を見出さなかったのは予想の範疇だったが、何某かの理由がその大きく拓けた額に浮かんでいるようだった。
脈は、あるのだろう。
仮に男がエースを無理矢理組み伏せたとしても、大怪我をせずに済むだけのチャンスはあるのだろう。
だが、それではない、もっと根本的な。
エース自身が抱えている何かに由来する思いが、本来は真っ直ぐに伸びたであろう相手自身の心を濁していた。
それが何であるのかを詮索するつもりも、義理もない。
知っていればいいのは、自分などよりもっと器の大きな人間だ。
そうか、と一言だけ呟いて、裸の背を向けエースは踵を返した。
苦虫を噛み潰したような顔を見せまいとしたのか、不明瞭なおのれの感情に対する惑いがあったのか。
憶測でしかないが、どうやら懸念するような事態にはなりそうにないらしい。
同じマークを持った所以か、赤の他人だというのにどこかで繋がっているような既視感を持っているのではないかとすら錯覚するほど、エースは男に打ち解けている。
口を開けば、向こうの言わんとする呟きを悟れるように。
長い時を共にするよりも容易に、単純なところで通じているような。
そんな関係をわずかな時間に得てしまったかのように、違う何かが互いの空気満たしている。
例え答えがノーであったとしても、心配するようなことにはならないだろう。
少しだけ痛い思いをしてもらえば済むだけだ。
あとは、その機会が来るのを待てばいい。
しかし、と思う。
誰があの偽ることを知らない青年に、男の本心を知らせたのだろう。
何のために、わざわざ手を回すような真似をしたのだろう。
他者が手を加えるべきではないはずの、二人の間に。