R18
堪え切れずに漏れてしまうのだろう。
すすり泣きを続ける体に、容赦なく引き締まった下腹を打ちつける。
頭の中にまるでセックスシンボルそのものしか存在しなくなってしまったかのように、李功の内側の襞に擦り続けるように水音を伴った摩擦を繰り返す。
李功の口から恥や外聞もなく、大きい、とか、激しい、とか。
刺激に翻弄されながらの形容が断続的に吐かれる。
神経が少しでもまともな時分であれば、妓楼の娼婦のような発言をしていると言ってからかえたかもしれないが、相手の脳裏が自身と同様、性交の一点に占有されているのだとしたら咎めることはできない。
後ろから覆いかぶさり、枕に李功を突っ伏させ、事に及んでいる様は、見る者が見ればけだもののまぐわいだ。
角度を見極め、最短距離で李功の奥まで届くように腰を使う。
大きな雁首がそこへ到達する都度、あ、とか、う、とか、音にすればぎこちないのに、鼻の裏から無理矢理引き出されるような高音が、面白いように李功から零れた。
がんがんと叩きつけ、時折奥地でこねるように技を使えば、折れ曲がった体の真ん中で隠れた李功自身が陰嚢もろとも緊張したようにびくびくと痙攣して涙をこぼす。
互いに出すのを我慢しながらの中心と後ろを使った交合は、飽きることなく続けられた。
不意に、思いついたように背の高い上体を屈ませ、李功の耳裏に唇を近づけた。
自分でも笑いたくなってしまうほどあからさまな獣の呼吸音に混ざって、意思とは真っ向から対立する言葉を囁く。
懸命に堪えながら乱暴とも思える時間を過ごしているというのに、不敵な宣告を聞いた時のように、びくりとその全身が振れた。
あ、、うぁ、、、と、李功が舌足らずな嗚咽を漏らす。
いつの間にかその頬が濡れているのは汗の所為だけではないのだろう。
だめだ、と、わななく唇は制止の詞を発したが、李功の内部は本人の希望と反するように急速に熱を帯びて行く。
本当は、待っているんじゃないのか、と内心でみだらに嘲笑いたくもなったが、もう一度、だめだ、と途切れ途切れに李功が懇願した。
駄目じゃない、と答えると、あんまりな仕打ちに心を傷つけられでもしたのか、ぎゅっと相手は瞑目した。
瞼の上に浮かんでいた水滴が大粒となって、色づいたなだらかな頬を過ぎ、尖った顎を伝ってシーツに落ちた。
その間も止むことのない律動に胴はおろか全体をおかされ、入れ墨を施した背から続く尻を後方へ突きだした体勢のまま、背後を首だけで振り返り、やはり、だめだ、と。
哀願するように名前を幾度も呼んでくる。
些かの憐憫の情すら湧いてくるかと思われたが、肉体はまったく違うことを欲していた。
駄目じゃない、と再度発する。
「……………駄目だ、……っ……趙(しょう)……」
返答をせず、李功の体を挟むように両腕を寝台の上に付く。
逞しく鍛え上げられたおのれの背筋を存分に使い、小刻みな注挿に専念する。
動きながらさらに屈み、李功の頭上に口元を寄せる。
艶のある真っ直ぐな黒髪に直接口づけるようにして声を発した。
「…………出すぞ、李功」
もはや応答できるだけの余裕すらなく、李功の体温が内から徐々に高まっていく。
受け入れるための準備を無意識のうちに細胞が覚え、男根の先端からほとばしる射精に備えて肉厚な臀部に高さが加わった。
最も深い位置に達せられるような高度まで。
「………………」
普段の李功と同じで学習能力が高いな、とセックスに没頭する相手とその生殖欲を認め、自らも突き上げてくる性の衝動に意識を委ねた。
李功の噎ぶような鳴き声が届く。
耳に、鼓膜に、もっと体奥に。
噴き出し、肉壁目掛けてぶつけられる奔流を受け止め、うめきながら雄の象徴を根元から絞り上げる。
しっかりと中に『証』を残せるよう。
欲しかったものを、熱望したシンボルから最後の一滴まで絞り取り終えると、李功の黒い頭ががくんと枕の上に落ちた。
はあ、と、嘆息のような息を吐き、上気した頬を隠そうともせずに長い睫毛をゆっくりと瞬かせる。
四肢はおろか爪の先まで恍惚としているように映るのは、恐らく錯覚ではないのだろう。
脱力感を隅々まで感じているだろうに、こちらを茫然と見つめてはおのれの口端やおとがいや、のどや胸に指先を這わせる。
自分の体を撫でる癖でもあるのかと勘繰りたくなったが、本当にこの五体が自身の持ち物であったのかどうかを確認しているようでもあった。
感想を吐くまでもなく、快かったと主張しているようでもある。
「……………………」
さらにもう一回、深いため息を吐くと、李功は隣で横たわるこちらの腕の間にのろのろと身を割り込ませてきた。
「……………………」
無言で受け止め、顔を覗き込むようにして黒い頭に自身の鼻先を埋める。
慣れた仕草でしっとりとした頭髪を梳いた。
一筋、二筋。
なすがままにされながら、厚い筋肉に覆われた胸部に『竜』の文字を押しつけてきた。
李功の側から、あからさまに甘えてくる素振りを見せるのは珍しい。
両腕を背中に回し、ぎゅ、と相手から抱きしめられる。
心地好いのでそのままにさせ、李功の髪を愛撫した。
なあ、と、下から声がする。
ん?、と片言で問う。
おまえはもう、越えてるんだからな、と低い囁きは続いた。
何のことを指して言っているのかすぐには思い浮かばず、梳いていた頭部を後ろから持ち上げ、顔を上げさせた。
「いつだったか、劉宝(りゅうほう)に妬いてるって言ってたけどよ………」
ほのかなふくらみが初々しい口唇が開く。
おれには、おまえに代わる奴も。
「…………それ以上の奴もいねえんだぜ……?」
「…………………………」
だから、嫉妬する必要はもうないのだと。
礼なのか、肯定なのか、それとも否定なのか。
この場に相応の言葉が出て来ず、ただじっとその面を見つめることしかできなかった。
穏やかな沈黙の後、さすがに気恥かしくなったのか、李功はうつむくようにして顔を胸筋の隙間に隠した。
少しだけ眠った後、目を覚まし、李功と再び繋がった。
喉が渇いたと言って水を飲みに行った姿をそのまま後ろから押さえ、そこに。
台所で立ったまま挑まれ、地面から李功の足が離れる。
縁に腕を付いて李功に上体を支えさせると、腰を抱え上げ、滑りの良くなった箇所を何度も昂ったもので擦りあげた。
衰えるどころか、中に出してから向こうの感度が倍に増していることを実感する。
苦笑しつつ、猛る欲望の望むままに白い首筋に唇を這わせながら、文字通りのセックスを繰り返した。