(一応R18で)
趙(しょう)の奴、と李功は思った。
ちょっとばかり甘えた素振りを見せただけなのに、簡単に乗ってくるのはどうか、と思う。
なぜなら、本来性欲を抑制する行為が当然の西派(せいは)の拳士を代表する白華(はくか)の師範が、少し誘っただけで容易にその気になるのは些か問題があるだろう。
昨夜は寝台から離れた以外の場面では、一度たりと体を離してくれなかった。
嬌声を上げ続けて渇いた喉を潤すために水を求めて寝室を出た際も、戻ってくるのが数分遅れただけですぐにこちらを探しに来たくらいだ。
がっつくなよ、とは言わないが、門弟たちには見せられない姿だろう。
何の用だと尋ねる暇もなく腰を捕まえられて、横抱きにされたまま閨房へと連れ帰られたが、まあ、歩く手間が省けたので助かったということにしておこう。
括約筋は常に締め、鍛えているが、動くだけで尻の間から濁ったものが流れ出てしまうような錯覚を覚えるからだ。
一晩に一度だけしか直腸の中に吐精しないとはいえ、その量と濃さは時間をかけて練られた分だけ、深い場所に余すところなく注ぎ込まれ、確実に種を植え付けられた気分になる。
子を宿す機能もなく、育むこともできないが、所有印のように交合の証として腹の中に射精されるのは嫌いではない。
それをさらに熱量を伴った肉棒でかき回されて、冷めるいとますら与えずに貪ってくるのも言わずもがなだが。
何よりも、始まりと、そして最中と、それから最終的な到達点。
ぐるぐると獣じみた唸り声すら聞こえてきそうなほど猛々しい趙の表情や動きのすべてが、普段の清廉とした態度や言動との著しい相違を覚えるからだ。
突き上げる大きな律動も、絶妙な角度も、勤勉な回数も、根元まで収めるタイミングも。
両脚を好きなように抱え上げて、強く打ちつける技の一つひとつが、荒々しいのにどこか礼儀正しさを覚えることが間々ある。
乱暴に欲求の充足のみを追求するのではなく、気真面目にこちらの身を気遣っている証拠だろう。
情事の後の睦言も、その前の時間も、事と事の合間のわずかな間さえも。
些少のこととはいえ、いつも心がここにあるような丁寧な対応をしてくる。
同性として憎らしい、と思うが、同時にどこか誇らしげな気持ちになる。
おまえみたいな男に組み敷かれている現実に。
だからこそ、その最終目的である相手の精液の塊を受け止めても、嫌悪感を覚えることは少なかった。
ああ、あと。
抱き合い、互いの舌と唾液と唇を貪り合いながら、後ろと前で結合するのも好きだが、と思う。
おまえは、背後からやるのが好きだよな。
おれの気の出口がある背中と、鍛えられた自分の胸と腹部が密着するのがいいと言っていたことがある。
この体位は実際悪くない。
体重をかけないように長い両腕をシーツの上で突っぱね、ガチガチに固まった一点だけを使って性交をする。
重厚な下半身の重さをそのまま感じるような一突きを受け入れるたびに、反り返ったものの硬度と熱さと逼迫した時間そのものを感じるような気がするからだ。
趙の興奮が度を越して、暴れ狂う欲望を制御しきれないのではないかと焦ることもたまにある。
けれど、それが逆にもっと繋がりたいという欲求にすり替わる。
ずるいよな、と思う。
正常な状態も、ギャップも、その背後で培われてきた無限の優しさも。
心根の広さを表わすような、でか過ぎる体躯までも。
全部がおまえとのセックスを際限なく快感だと捉える要因になる。
おれも大概、狡賢い人間だけどな。
良心の塊みたいなおまえを、こうして夜だけとはいえ堕落させてるんだから。
自覚があるだけ、誠意があるってことにしておいてくれ。
それから―――
駄目だ。
なんにも考えられなくなる。
おまえに求められるまま。
おまえと、
おまえの××××以外のことを考えられなくなったら、もう、きっと―――
(おまえももう、限界なんだよな………?)
「――――――というようなことを、考えてましたよね」
言うなり、顔の大きさとアンバランスなつぶらな双眸を智光(ちこう)はきらり、と光らせた。
さながら名推理を行った後の名探偵のように、右手の人差し指を対面した人影の前に突き出して。
「あいつ、殴っていいか」
もう、殴ってる。
真剣な顔つきのまま憤慨している李功の正拳突きが綺麗に決まり、ものの見事にめり込んだ広い顔面を眺めながら、心の中で嘆息した。
親友を自宅に泊めた翌朝に、智光と会うのは李功の精神衛生上よろしくない。
そんな当然のことを改めて実感するに至った晩夏の休日だった。