銀普。
玄関開けたらすぐ蒲団。
夫として嫁を布団の中で労る気満々な
銀針でした。
はりこのとら(C)水堂 画像や文章の転載やパクリ・模写はお断りします。
どうしてここに、智光(ちこう)師範が。
声に出して尋ねる前に、後ろからやって来た人物に胸倉を掴まれて持ち上げられ、地面!、足!、ついてない!!、と豚足のような両脚をバタバタさせた。
「誰が、『マスター』なんだよ…?」
ひい、と心の中では情けない叫び声を上げているのに、え、だって、と頓狂な声音で答える。
「…お二人はどう見ても、マスター級でしたよ」
腰を使って責め立てる側も、雄雄しい男根を受け入れて感極まる側も、互いの腰使いが…、と具体的に褒めかけて、さらに李功のすさまじい腕力で頭上高く持ち上げられた。
放っておけば服で締められてそのうち窒息するだろうなと思いつつ、怒りを漲らせている親友の方に同情したため、止めようとは思わなかった。
李功とて手加減は知っている。
それはつまりおのれの力量を見極めているからこそ言えることだが、何で知ってんだよ、と怪訝な表情で訊いた李功への男の返答を耳にして、このまま失神させても良いのではないかと冷え切った心の隅で考えた。
「勁(けい)の力を使って………」
掌を前面へかざすことによって、気配を実像として感じ取ることができるのだと説く。
物体に直接触れなくても空気を通して可能だという根拠は、要するにこちらも同じ勁(けい)使いだったからだろう。
強力な気を持っている者同士だからこそ、中で行っていることを、まるで映像を観るように知覚できたのだろうということは理解できる。
現実に自身が試したことはないが、そういった使い方もできるのだろう。
大した発見というか、発想だと、感心できないこともない。
だがしかし。
「……………」
そんな力の使い方があるのか、と感じ入るよりも先に、李功の眉間に鋭い縦皺が浮かび上がったのは言うまでもない。
無言になったのはそろそろ本気でこいつを殴ろうかと思案しているのだと肌で悟ったらしい智光の顔面がさらに蒼白になる。
どっと毛穴から脂汗を浮き出させ、ギブアップ、というようなことを髪を振り乱しながら重ねて訴える。
哀れを通り越して、何だろう今のこの状況は、と諦観したくなった。
「今度やったら、確実に、おまえの一番大事なところを、握り潰す」
どんな脅し文句なんだ、と胸中で突っ込んだが、李功にしては比較的寛大な処置だなと思わなくもない。
宣告したということは、この時点では手を出さないと誓っているようなものだ。
しかし李功の言葉を受けて、実際に何かを想像したらしき背の低い男が、ひいいいいいい、と上下に伸びるようにして全身を震え上がらせる。
李功の標的だと宣言された股間の部分は、恐らく文字通り縮んでいるのだろう。
一応地上に下ろしてもらったのでこの場から逃げ出そうと思えば逃げられるのに、李功の目の前で律義に、半ば失禁しつつ震えている様は滑稽以外の何ものでもない。
単に足が竦んで動けないだけであったとしても。
「………………………」
……何となく。
いや、予想しなくても、どこか。
「………もしかして、面識があるのか……?」
智光と妙に仲が良いらしいことをぼそりと呟き、指摘すると、こちらを振り返った李功と目が合った。
目を丸くすると実際の年齢よりも一層おさなく見えるのは、本人には自覚のないことなのだろう。
存外ふっくらとした唇を軽くすぼめ、無邪気な様相で見つめてくると、無意識に手を伸ばしたくなるのだが。
「…ああ、昨日」
ちょっとな、で始まった回想を、李功は掻い摘んで明かしてくれた。
「…………機嫌直せよ」
先ほどまでほころばせていた口元をわずかに尖らせ、李功は朝の食卓に着いた。
別段怒ってはいないが、と態度で示すと、やれやれと相手は肩を竦めたらしい。
温めなおした朝食を器に盛り、並べて行く。
週に一度の休息日とはいえ、拳士の食事は粗食と質素が基本だ。
麦飯と汁物のたった二品だけということも少なくない。
昔と変わらぬものを食すよう心がけているのは、これも修行の一環だと考えられたからだ。
無論、人によっては随分とその中身が違うことも事実で、白華では菜食主義が一般的だ。
贅沢ができるのは一握りの拳士で、そうではない者は古来から続く簡素な料理を食していた。
自身が腹を立てているのは、特段、智光の下で李功がその手料理を食べたことが原因ではない。
向こうが中華料理に関してはどの地方のものであってもプロ並みの腕前なのは知っているし、自分などよりもその技や知識が卓越していることを実は自慢しているのも既知だ。
それを味わったのだろう李功に、比較してみすぼらしく映るだろうおのれの手料理を振舞うことを恥だと感じたわけではない。
思ったことをそのまま表す相手が豪勢な品々を味わい、厳選された茶葉を用いて淹れた茶で喉を潤し、即座に漏らした感想を聞いた智光の得意げな顔を易々と思い浮かべることができる。
才能はあっても、器量良しとは程遠い見た目や変質的な性癖によって大分評価を下げている男が、滅多に味わえない優越感に浸ることが当人にとって唯一の慰めだということも、同門の高弟であるからこそ知っている。
だからこそこれは、ただの嫉妬だと。
昨夜あれだけ睦み合っても尚、李功が何者かとねんごろにしている現実を眼前に突きつけられると、快く思わない心情に占領されてしまうのだ。
抑えることはできる。
表面に出すまいと努めることは。
けれど相手にはすぐに知られてしまうらしく、今のようにむっすりとしかめっ面にさせてしまうのだ。
「……………怒ってない」
ぜ、と、できるだけ余裕を見せつけようとしたが。
「………おまえは、芝居が下手過ぎるんだよ」
畳み掛けるようにして見抜かれる。
おまえに限らず、正直者の多い白華の奴らには無理な話なんだろうけどな、と李功は続けた。
「…別に、智光に惚れたなんて言ってねーだろ…?」
単純に、多少は乱暴であっても年頃の友人のように接しただけだというのに、臍を曲げられて困惑しているのだろう。
下方から睨みつけるように見つめてくる。
確かに李功の言うとおり、知らぬ間に顔なじみになっていたことに驚きはしたが、喧嘩腰で付き合うよりは格段に増しだ。
最高師範の梁(りょう)に教えを受けている者同士、仲違いをされていても困るからだ。
だが今回は色々なことが重なり過ぎた。
第一に、何で隣に越してきたのか。
閑静な立地であるからこそ選択したはずの安住の地となる予定の場所で、よりにもよって不道徳を体現したような男が隣人になるとは。
それだけならばまだしも、こちらの夜の営みまで覗かれていたとあっては、李功ではないが、その両目と両耳を潰しても飽き足りないくらいだ。
あの、李功と二人きりで過ごした密な時間という時間をつぶさに鑑賞されていたのだとしたら。
交わした数々の睦言も、吐息も。
過度とも思える行為と、言葉による呵責も。
あまつさえ、それらをすべて男の性欲処理として使われていたのだと知れば、憤りを覚えないわけには行かなかった。
なんであいつなんだ、と、本来であれば拳で壁を突き破りたい衝動すら湧いてくる。
それもこれも、要因となっているのは。
「………智光は、基本的に。…まあ、悪い奴じゃねーよ」
若干言い淀みつつ、李功は自身の見解を語った。
あいつの悪癖に関しては、弁明しようもねーけどな、と当たり前のように継ぐ。
昨日話したばかりだと言っていたが、それだけで李功にも知れる事情は多かったのだろう。
新居に運び入れた荷物の中に、いつ使うのかもわからない西洋風の電動式の張り形や、女体をかたどったビニール製の人形が転がり出てきたのを目撃した李功の呆れた顔が容易に想像できる。
何に使うのかもわからないとは、同じ男としてさすがに言わないだろうが、男所帯と言われる黒龍の若き総帥であっても辟易するような品々を、その手にとって所定の部屋まで運ばされたのだろう。
どんなセクハラだと、それに関しても苛立ちを覚えないわけではなかったが。
「……………そんなことは知ってるさ」
同じ白華拳の師範だからな。
言葉を受けて、不意に李功は整った頬を柔らかく緩め、微笑ったようだ。
「だったら、気にすんなよ」
卓の上に左手を乗せる。
洗濯をした李功の服の代わりに貸してやった上着は、当然のように李功の体には大き過ぎる。
幾重にも捲り上げた袖から覗く白い肌。
しっかりと硬い筋肉で覆われた、均整のとれた肘から手首が。
準備を終えて椅子に腰かけたこちらに向かって伸ばされた。
「俺が好きなのは、………………なんだからよ」
「…………………………」
聞き取れたわけではなかったが、長さも太さも違う二対の指先が触れ合った瞬間、李功の気持ちが胸に直接流れ込んできた。
余談だが、智光を建物の中に追い払った後に李功の下穿きが乾いたことを確認したので、食事中ひとまず下半身の按排は悪くはなくなったらしい。
丈が李功の膝上まである、貸してやった自身の上着だけで充分じゃないかと揶揄したが、途端におまえのズボンも貸せと凄まれた。
余分にあったものを手渡したが、確認するまでもなく裾の長さも腰回りも一回り以上大きく、李功の引き締まった腹筋が無意味に広い空間とミスマッチでどこかさびしげに映った。
足元を見るまでもなく、引きずるほどの大量の布地にその足首は隠され。
裾を何度も折り返し、腰帯をぐるぐる巻きにすることで何とか床から離れたが、次回に備えて李功のために食器だけでなく着替えも用意しておかなければならなくなったようだ。
苦笑いを浮かべながら、今日のような日の再来を願わずにはいられなかった。
(実は彼シャツ(下全裸)状態だった李功でした)
あの趙の奥の手は
どう考えても次の試合で
李功に使いたい技に見えて
仕方がなかったという話です。
絡みつく蛇がとっても太いのは
趙のほにゃららを象徴…げふげふげふ。
李功もびっくりなセクハラ技(?)へと
進化してほしいです。
真面目な話をするとあれは自爆技ではなくて
多分一発で大ダメージを確実に与える技なのだろうと思います。
百歩神拳だと素早さと機動力が趙よりありそうな
李功に確実に避けられるので
直接勁(けい)を当てるために
身動きを封じる技なのかと。
どちらにしてもいやらし技であることに変わりはないかもです…。
そしてさらに言えば、趙の技は遅くて重くて威力があるけれど
李功は速くて軽くて(…)手数が多いイメージです。
趙李は性格も真逆で繰り出す技の性質も
両極端の印象があったりです。
でも仲良し。
結婚が西派で許されないなら許されないなりに
目一杯やってやる…!、と誓いまくる
趙だったそうです。
それは何か違うんじゃないかというツッコミは
イチャイチャ過ぎる二人の頭には
浮かばなさすぎたという話です。
ちょっぴり切ないけれど
趙李は永遠の恋人…!、らしいです。
R18
さすがに今回は、
やりすぎじゃ、ねえのか、と。
小狭な浴場で椅子に座り、向かい合って抱き合いながら、李功は揺れに度々言葉を奪われつつ、埒もない感想を漏らした。
夜が明けた頃、李功が本格的に眠りから覚醒する前に起床し、汚れものを脇に抱えて早々に洗濯を行うべく部屋を出た。
風呂の湯を沸かしながら、その傍らで下着や服を踏み洗いで洗浄していたのだが、いつまで経っても相手が起きる気配がなかったので寝室まで迎えに行くと、すでに李功はベッドの端に腰かけ、白い首を傾げていた。
服はどこへやったんだ、と堂々と足を開いたまま股間を隠しもせずに訊いてきた黒い頭に、洗い終わったから干しているところだと告げると、途端に柳眉を大きく歪ませた。
しかしすぐに思い直したのか(そこが李功のいいところなのだが)、背後を振り返り、もうひと眠りすればいいかと思考を軌道修正したようだ。
そんなわけがあるか、と嘆息しながら上腕を掴んで立ち上がらせると、面白いように膝を崩してきた。
咄嗟に体と腕を使って支えると、あー悪い、と気の抜けたような声が届いた。
まだ本調子ではないのだということを察し、さすがに盛りのついた動物のように一晩中励んでしまったことを後悔するところだったが、風呂の用意ができていると告げると何とか自力で立つことができたようだ。
下手をすると再び女のように抱き上げられて連れて行かれると懸念でもしたのかもしれない。
身体を洗ってやる、と言うと、やはりというか、李功は何とも言えない顔つきになった。
元々、身内の世話を焼くことそのものを苦労と感じることが少ない体質だった。
特になぜか、恐らく好いた相手だけに限ってなのだろうが、事後の汚れた肌を拭ったり、髪を梳き衣服を着せて整えてやることがごく自然にできているという自覚がある。
苦ではない、というのが本来的確な表現で、義務という認識が強く、決して好んでというわけではない。
李功は李功でやりたいようにさせているのだが、当初はなんでこんなことまでするんだ、と明らかに眉をひそめていた様を思い返す。
こどもじゃねえんだぞ、と断られたことも現にあったが、だからどうした、と視線で訴えると、それ以降不満を言わなくなった。
過度の奉仕精神や、他者の身体を自由に扱うのが好きなのではなく、こちらがしたいようにしているだけだと悟ったためだろう。
議論するだけ無駄であると察したからこその賢い選択だったのだろう。
李功が自分でやるといっても、結合していた余韻が強過ぎる時は腰はおろか手指にも力が入らないことが多かったので、結果オーライだ。
それに今回は、他に目的がある。
「どうせ奥まで届かないんだろ?」
「…………………………」
聞くなり、李功は憮然とした。
どこを指しているのかを一発で的中させたからこその反応だった。
昨夜、数週間、練りに練り続けた濃い精を李功の体の一番奥に放ったのは、故意だ。
なぜなら、欲望に理性を貪り食われても、よほどのことがない限り意図しない射精を行うことは皆無だからだ。
そうだと言い切れるのは自負であり、自戒のようなもので、白華の師範を務めているという矜持にも関わる。
それは李功とて同様で、無理矢理快感を引き出すような拷問を実際に受けたとしても、そう易々と体外に種を放出するような無様を晒すことはないだろう。
今更説く必要もないほどに、高ランクの拳士として内外のエネルギーを操る術を体得している所以だ。
「体くらい、自分で洗えるぜ」
「ああ。…じゃあ、見ててやる」
目的の場所まで届いているのかどうかを。
「……………………………………」
相手を睨みつけながら黙り込んだ李功の顔が赤面しているのは、恥じらいのためか怒りのためなのかの判別は付きそうで付かなかった。
そうしてると、黒龍拳の総帥も形無しだな、と思わなくもない。
どんな悪趣味なんだよ、と李功は歪めた唇で悪態をついたが、ぐいぐいと強引な力でこちらに流されることにはすでに慣れてしまっていたのだろう。
反論のしようがなかったのか、舌打ちとともに項垂れ、覚悟を決めたようだ。
しかし道の先頭は譲らず、強がって前を行く。
全裸であることはもはや当人にとって問題ではないらしい。
後方でうっすらと苦笑を浮かべながら、李功の後に続いて風呂場へ足を踏み入れた。
泡立てた海綿を使って、早速李功は爪先から頭の天辺まで拭いきったようだ。
相変わらず異様なまでの手際のよさだと思ったが、見られているからこそのスピードだったのかもしれない。
表面にシャボンが付いたままであるとはいえ、もう一度洗い直してやるつもりで傍らに立つと、みぞおちに使い終わった海綿を押しつけられた。
先ほどまで履いていた下衣は脱いで、勿論自身も一糸まとわぬ姿になっている。
「…おれはもう済んでる」
受け取った物を水を張った桶の中に放り、あとは湯に浸かるだけだと明かすと、李功は無意識だろう、唇を噛んだ。
「………教えてくれるだけでいい」
「………………………」
後ろの洗い方だけ教えてくれれば事は足りるとの主張だが。
初めて李功の中に出した前回は、自らの不徳のために不本意にも喧嘩別れのような形になってしまったが、その時はといえば想像しなくても李功自身の手で片付けたのだろう。
しかし今丁寧に教えてやろうと思った理由は、先回の後ろめたさがあったためと、それから。
臀部の割れ目に指を這わせる相手の痴態を見てみたかったなどと白状できるはずもない。
立ったまま無言で濡れた腰を引き寄せる。
上から覗き込むようにしながら、李功の後ろへ背後から手を這わせた。
膨らんだ丸みの間に潜んだ一点に中指の腹を当てると、李功が息を詰めた。
相手の挙動は、夜であっても朝であってもさほど変わらない。
陽の光が差し込んでいようといまいと、強がる姿勢に変化はない。
意地っ張りのように映るが、単に生まれ持った気同様、意思も強いだけなのだろう。
だからこそその鼻っ柱を折ってみたくなるのだという反骨の精神は、ひとまず今は封印しておく。
ここだ、と教えるようにして数回表面を撫で、その指を持ってくるように促す。
決心したのか、早くこの作業を終わらせてしまいたかったのか、一瞬も躊躇せずに李功は手を伸ばしてきた。
振り返るような恰好で鍛えられた左腕を伸ばす。
押さえていた温もりの位置を交代するように場所を譲ると、躊躇わずにそこに押し入ったようだ。
自分が触れる時よりも、李功の反射は穏やかだ。
何がどう動くのかを知っているからこその手ごたえだったが、集中してしまえばこちらの目など気にならなくなるらしい。
近距離で見つめている側はといえば、そんな冷静なことも言っていられないが。
少しずつ、少しずつ、深く、深く。
「………っ………」
李功の呼吸が跳ねたのを認め、噤んでいた口元に力を入れた。
そうさせたのは間違いなく、次第に重くなる下肢が原因だったのだろう。
「…………………」
断りもせず、手に手を添える。
「……!!!」
前触れもなく狭い内側に自分と親友の二本分の体積を受け入れる事態に陥り、ぐ、と李功の喉が鳴った。
まさかいきなりこの場面で他人の介入があるとは予想していなかったのだろう。
振りほどこうにも手の甲の上から押さえられているので、密着した状態から抜け出すこともできない。
「いいから、このまま……」
このまま黙っていろ、と強い視線で命じ、すぐに李功が辿った距離まで至る。
懸命に乱れかける呼吸を正常値まで引き戻し、真摯な態度を取ることで李功に警戒させないよう努めた。
つい数時間前にも、おのれの触覚器官や局所で味わっていたはずの密な空間を進む。
内部の熱が高まっていくのを皮膚の上から感じながら、この先だと見当を付け、さらに奥へ先端を伸ばした。
李功の背が撓り、後頭部が肩を突いた。
視線がかち合った拍子に堪らず上方からその口端に口付けた。
しかしこれでは汚れを洗っているのではなくただの性交だ、と自らを叱咤し、すぐに離れる。
李功の奥を先っぽで撫でさすり、泥濘のような感触を感じた部分でわざと壁を突くように節を曲げた。
っ、と、ひるんだような声音が耳に届く。
「…………ここだな」
ぬるついた箇所を畳み掛けるように指で捏ねると、さらにびくびくと李功の太股が痙攣した。
執拗な愛撫に立っていられなくなったのか、右腕がこちらの脇に回る。
縋るような媚態に脳髄をぞくぞくと痺れさせながら、飽くまで平静を装った。
「拡げるぞ…?」
内股を伝って流れ出した分については夜の間に拭いとってしまったが、微量の残滓がいまだに李功の直腸に居座っていることを確認し、反対側を押すよう促した。
ここに自身の指が二本入っていれば同時にその隙間を押し開くことが可能なのだが、残念ながら自分と李功の一本ずつしかない。
どんな共同作業だよ、と相手の心の声が聞こえてきたが、無視して顎でしゃくり、重ねて命じる。
わずかに顔を背けながら、李功は言われた通り自身の指でそこを広げた。
事が終わり抜き出す前、向こうが要らないと言うのも聞かずに、内にある李功の性感帯のひとつを教えてやった。
ここを弄れば好くなる、と。
大きなお世話であることは明らかだったが、自慰の時に後ろを使うなら知っていた方が何かと都合がいいだろう。
どんな親切なんだよ、と李功はあからさまに声を荒げたが、おれのことを考えながらしてほしいからだ、と気真面目に返答すると、諦めたように瞑目して天を仰いだ。
それを肯定と受け取り、いつも欲しがるところを繰り返し突いてやる。
ゆっくり、撫でるように。
次いで、激しくぐりぐりと押しつけるようにして刺激する。
李功の下半身が揺れ、前が明確な形を持って持ち上がってくる様子を視界に収めながら、押し留めていた自らの呼気を盛大にならない程度の遠慮を伴って吐き出した。
「………好いだろ…?…」
李功、と赤く染まった耳元で囁くと、目を瞑ったまま、ああ、と短く応答が返った。
粘膜の筒の中でともに濡れている李功の指を再度導き、動きを倣わせ、数度。
動かした瞬間、唇を噛みしめ、前傾した。
床の上に倒れ込んでしまわないよう、引き締まった腹部に腕を回してさらに支える。
背後で密着した背骨に覚えのあるものの硬直を感じ、正体を悟ったのだろう。
趙(しょう)、と、音にはしなかったが、流し眼とともにこちらの顔を見上げてくる。
その普段とは似ても似つかないような純朴とも思える仕草を見て、堪え切れず笑い出してしまえば、もう出て行けよ、と弱音を吐いた。
そんな心にもないことを言うな、と相貌の下半分を歪ませて応える。
今のおれは白華の師範失格だな、という自嘲を込めて。
「……二人でやれば、もっと効率がいいぜ……?」
単独で事後処理を行うよりも、一緒に励めば双方に利益があるだろう、と。
尤もらしい口説き文句だったが、淫猥な響きが含まれているのは否定できない。
だったら、早く、しろ、よ、と。
素肌を紅潮させ、汗と水で乱れた前髪の李功が困ったように唇を突き出して訴えた。
それから、現在に至る。
最初のうちは半分までと決めて注挿を繰り返していたのだが。
結局は李功に強請られ、根元まで。
この方が奥まで洗えるだろう、と切れ切れに発された向こうの提案の正否の判断は別として。
浴場に設えられていた腰かけに座り、前から李功の全身を抱き込むようにして繋がった。
目線を真下へ落とせば、李功の丸い臀部の奥様で繋がっている雄の象徴を一望することができる。
旨そうに太い幹からその付け根に至るまで、すっかり銜えこまれている光景は、卑猥という他はない。
相手の膝裏に腕を差し込み、五体を掬い上げるようにして結合しているので、李功にとっては不安定だろうに体格の大きな差によって不思議と安定した。
すっぽりと李功を抱き込んだ体勢で、首の後ろに相手から回された腕を感じ。
目の前の体と密着し、敏感な部分をおかし、揺さぶり、心地好さを引き出すように腰を使い、抱く。
深く穿ち、一方は受け入れながら、正面から互いのあからさまな表情が覗けるので、正に今、一分の隙もなく利害が一致しているのは疑う余地もない。
時々両方の額を擦り合わせ、物欲しげな口をどちらからともなく塞ぎ合ったり、口腔から食み出す分厚い舌を舐め合ったり、絡め合ったり。
そうして飽きもせず、当事者以外誰もいない室内で蜜月の続きを耽溺した。
はずだった、のだが。
「おはようございます」
洗濯物を取り込むために表へ出た途端だった。
反射的にぎょっとして振り返った先には、ティッシュボックスを脇に抱えた、潰れ顔の男の師範。
寝不足なのか、擦った目は白兎のように赤く腫れている。
なんでここに知り合いがいるんだ、と怪訝に思う暇もなく、智光(ちこう)はなぜか慇懃に両手を合わせ、こちらに寝癖のついたこうべを垂れてきた。
それもそのはず。
続いた呼称は、思わず目を丸くしたまま顔面を茹で上がらせたくなるようなものだった。
自身を前に礼儀正しく腰を折り。
「ペニスマスター(先生)」
次に、後から扉を開けて出てきた李功に向きを変え。
「アヌスマスター」
どっと、李功が地面に背中を付いて倒れ込んだのは言うまでもない。
(ずっと最後のシーンを書きたかったとは口が裂けても言えません)