小さいバージョンの銀普。
なぜか身体的な能力(謎)が
同レベルっぽい感じになった二人の攻防。
その唇を奪う気満々の銀針に
手を突っぱねて何とか抵抗しているらしい、普氾。
ちいさい恋は猪突猛進…!(?)
はりこのとら(C)水堂 画像や文章の転載やパクリ・模写はお断りします。
水百のごっこ遊びの家庭教師バージョン。
何回聞いても何度も同じことを教えてくれそうな
百鶏。
最後には「もう知らねえよ、付き合いきれねえよ」と言って
席を立ちそうですが
苦手なHなこと以外には結構気長に付き合ってくれそうな
イメージがあったりです。
R18
銀普で描いていたのですが
何となく四年前・趙李に。
李功の可愛い場所も丸ごと眺めてやる…!、という
野望があったのですが
包帯越しでも趙であれば
びびびと感知できるのではないかと思います(妄想)。
四年前・趙李は李功の
羞恥シチュエーションがほとんどのような気がします。
ちびっこ、銀普。
ちっさい普氾は無愛想無口なイメージですが
大好きなにーちゃんと一緒の時は
物凄くにこにこしていたように思います
(兄が大好きなので)。
一方銀針は特に今と変わらないかもしれない
その中身でした。(外見も?)
何があったんだ、普氾…!、というよりも
ちっさい普氾はにーちゃんに捨てられて(謎)
ちょっとさびしい子になったのかもしれませんでした。
…でも天然(?)。
R18
影なき影が覆いかぶさるように、暗闇の中で結合の一部始終をどこか冴えた感覚が見守る。
焦らすように湿った粘膜をかき分け、少しずつ距離を進ませ最後まで到達すると、無意識に深い嘆息を吐いた。
下にした李功の体は精一杯広げた脚の間を見せつけるように、腰を動かして奥に達した雄をさらに引き込むような動きを見せた。
自身の所作であるのに、毎回そこで一度極まったかのような顔つきと息継ぎをする。
自分の倍の体積を根元まで銜えこんでいるのだから苦しくないはずはないだろうに、次に来る刺激を期待しているかのようにどこか恍惚としているようだ。
その頭の中を覗き込んでしまうことは可能だったが、こういう時は決まって地面から生まれ水の中を昇って行く気泡のようなとりとめのない思いばかりが浮かんでは消える。
あらゆる感情が弾けて消えて行く中に、たった一つの思いだけが残るよう、徐々に腰を突く動きを速めた。
最初は小刻みに。
次第に繋がった箇所がシーツから離れるくらい振り幅を大きく。
相手を囲うように両腕を寝台の上に突き、李功の頭上に顔を近づける。
耳目を近くに寄せれば、小気味良い呼吸音が聞こえてきた。
合わせるように李功が感じ、全身を喘がせていることがわかるから、これが一人の作業だと錯覚することはない。
気持ち好さそうだと心底実感するのは、腕を伸ばして相手から抱きしめられる時よりも、繋がった一点を通して互いが高まっていると感じられる瞬間だ。
たん、たん、と尻を打たれ、穿つ回数が増して行くにつれて、李功が下肢を捻り、上体をしならせる。
貌の脇についた太い手首に指を這わせ、耐えきれなかったのか汗で濡れた額をそこへ擦りつけてきた。
「………っ………」
黒の艶だけが印象的な髪と睫毛とその端正な鼻筋の陰影。
そこから覗く切れ長の双眸から何かを訴えるような光が瞬く。
もっと激しいものを欲しがっているようにも見えるし、このまま同じ調子で突き続けてほしいと切願しているようにも受け取れる。
媚態というにはあまりにも静かだが、李功は行為の最中眼を閉じていることが少ない。
しっかりと何が行われているのかを捉え、本当に思考で知覚しているのかはわからないが、性交の始めから終わりまでを長い睫毛の奥から注視していた。
それはまるで、仕方なくおまえにおかされてやっていると訴えているのではなく、誰とこうして交わっているのかを確かめることそのものが喜びであるかのように映る。
今更相手の視線に気恥かしさを感じる初心な心などなかったが、そんな顔を見つめながら李功の好きな場所を選んで突いてやれば、ようやく大きめの声が上がった。
「…あ、…っ…!」
それに興が乗ったように、李功が反応したところにぐりぐりと硬い部分を擦りつけ、嬌態を見せる姿を存分に視界に捉える。
まだ余裕があるかと思ったが、下半身を揺らす速度が意図しない内にさらに速まっていたようだ。
性急過ぎるな、と心のどこかで他人事のように思いながら、両腕の肘を折った。
李功の側頭に額をつけるように上体を屈め、下の動きに専心する。
絶頂に至るぎりぎりのラインまでを見定め、達する直前に加速していた注挿をぴたりと停止する。
ひどい仕打ちだと思われても仕方がないが、ここで早々に射精するわけにはいかないからだ。
下敷きにされている李功は、はあ、はあ、と大きく胸を喘がせている。
下腹部のさらに奥様に、盛大に膨張し無数の血管を浮き上がらせた男根を収め、中心で自らも屹立させたまま呼吸を正そうと苦心しているのだろう。
一度手で精液を伴わない射精を促してやっていたが、受け入れる側特有の性的な興奮を治めるのはかなり苦労するようだ。
後ろと前に二つの爆弾を抱えているようなものなので、常人であれば気を割く必要などない生殖的な欲求に身を任せてしまえない今の状況は正に修練といっても差し支えないものだ。
自分などは一つのことに集中すれば良いだけなので申し訳ないといつか気真面目な性根に触発されて相手に告げたことがあったのだが、それはお互い様だと鼻を鳴らされた。
そもそも李功の絶頂の手綱を握っているのも自身なのだから、気にするな、と。
その直後に、真昼間からこんな話を二度とするなよと、相貌を険しくして窘められた。
尤もだとは思うが、いつ爆発するかもわからない肥大したものを銜えこんだままで自らの欲望も同時に制御しなければならないのであれば、並大抵の精神力では務まらないだろう。
ふう、と軽く息を吐き出し、再び体をゆすり始めると、今度は李功は声を殺さずに喉を震わせた。
感じていることを素直に明かすように、縋っている腕に汗を滴らせた頬を摺り寄せる。
辛うじて浮かんでいた眸の光は今は大分かすんでぼやけている。
おれもそろそろ終わると声なき声で白状し、ふと歪な笑みに顔を歪ませた。
何年も就寝していたであろうこの広い寝台の上で、憎み忌々しく思っていた門派の師範に実の弟が組み敷かれ抱かれている情況を知ったら、李功の兄であったあの男はどんな気分になるだろう。
そして李功も、何ら後ろめたい気持ちになることはないのだろうか。
自分がわかっていることは、少なくとも李功に感じるところは少ないだろうということ。
ここを使っていた本来の持ち主が誰であろうと、現実に繋がり、この空間を埋め尽くしている呼吸音と汗の弾ける音、嗚咽とそして時間を分け合っているのは他の誰でもないことを理解していると思った。
ちゃんと李功は自身を受け入れてくれている。
単純で紛うことのない一本の線で結ばれている事実。
誰かと代わったわけではなく、一人の人間として目の前に居る、その現実を素直に受け止め認めてくれている。
だからおれはおまえを選んだんだ。
李功の背後に腕を伸ばし、シーツから掬い上げるように抱え上げる。
接合した部分がわずかに浮き、重力とともに太股の上にはっきりとした水音を伴って落ちてきた。
さらに深くなった結合に喘ぐように、李功の両腕が広い背に回る。
力強い手で縋るように抱きしめてくる微妙な力加減に知らず眩暈を感じ、相手の首筋に鼻先を埋めながら片手をついてもう一度腰を浮かせ、長い下肢を器用に組んで胡坐をかいた。
繋がったまますっぽりと、大きな体の上に李功の全身が治まった。
ん、ん、と堪えるような声音を喉から発し、睫毛を震わせる李功の口角が耳朶に触れた。
そこでようやく。
今日初めてだろう、互いの唇をやっとのことで味わった。
最初から口と口を深く合わせ、李功に両方の頬を掌で捕えられたまま角度を変えてとろとろに溶けた熱い口内を貪り合う。
離れた隙間から透明なさらさらとした唾液が流れ、相手の首や鎖骨、胸を濡らす。
好きだと言葉にするよりも明確な、上で繋がる行為。
李功の腹の中で大きくなる自身を別の次元で捉えながら、陶然と口での交接を味わいながら飲み干すように貪り尽くす。
まだ足りないと思って肩甲骨の当たりを押して尚も李功を追い詰めようとしたが、背筋に触れられた途端びくりと相手の体が撓った。
そのまま直線的な動きで指先を揃えて下方へ下して行くと、今度はぞくぞくとした震えに。
ぬちぬちと一定のリズムを刻み続ける結合部に後ろから直接触れた瞬間、指を求めるように李功の腰が後方に逸れた。
反射的に予測していなかった部分をぎゅうと締め上げられた反動で、眉間の裏で強烈な光がいくつか閃いた。
堪えるように額を険しくし、瞑目したが、間に合わず少量の精を放ってしまう。
敏感になった李功の臀部の隙間を爪先で二三回ひっかくと、追うように相手も達したようだ。
李功は抱きしめてくる体を片腕で抱き返し腹筋を浮き上がらせたまま幾度か前後に蠢き、粘りのある透明な液を上を向いた先端から吐いた。
「…………っ………はあ、………っ…」
あ、と、追いすがるような喘ぎ声を漏らし、その上で両手で分厚い筋肉に覆われた肩をぎゅっと強く抱擁した。
肌と肌が密着し、聞こえてくるのはくぐもったような啜りあげる音色だ。
暫くの間李功の体の震えは治まることがなかったが、深いため息のようなものを吐き、上気した容貌が腕の間から持ちあがった。
「………まずいな…………」
小さく喘がされ続けただけだというのに掠れた声にはまだ熱がこもっている。
何を指して言ったのか、十中八九わかってしまったのは慧眼でもなんでもない。
「…『まだ足りない』、だろ……?」
台詞の続きを代弁して返してやると、はあ、と艶っぽい息を吐き出しながら、現状には似つかわしくないような憎まれ口を叩いた。
そうじゃない、とかぶりを振って。
「………『もっと、………い』、……だ」
足りない、という下手に出るような感想ではなく、もっと強く、望んでいる方の形容が相応しいと。
「じゃあ、おれも望んでいいか…?」
「……?………」
濡れた顔を大きな眼を開いてじっと覗きこむと、呆けたように李功の唇が薄く開いた。
(本格的な初夜が長い…!)
R18
部屋に踏み込んだ際の第一声を言葉にするなら、想像以上に簡素な部屋だ、というその一言だ。
椅子も机もない、あるとすれば奥行きの浅い背の高いだけの棚と、衣類棚、そして長いカーテンで仕切られた寝所だけだ。
つまんねーだろ、と李功は言った。
意外だと思ったのは、物がないおかげなのだろうが、室内が清潔に保たれていたことだ。
相手の大雑把というか思い切りが好過ぎる面を多々見てきただけに、雑多なものが溢れているのではないかと思い込んでいたのだが。
唯一違うと思ったのは、壁に飾られているいくつかの写真だ。
色褪せているものもあれば、真新しいものも。
古いものは、切れあがった眼光の寡黙そうな男と、十代にすらなっていないのではないかと思われる幼い親友が並んだ写真。
かつての師であった王き(おうき)を囲み、黒龍拳の高弟たちが集まったものもある。
一番新しいのだろう、下の方にかけられた額には見覚えがあった。
飾っていてくれたんだな、と尋ねると、当たり前だろ、と鼻を鳴らしてこの部屋の主は答えた。
白華拳の未来の大道師を中心に、錚々たるメンバーが顔を揃えた大祝賀会で撮られた一枚だ。
それから、今年の旧正月に撮ったものも。
「おまえならもう気づいてるかもしれないが、ここは元々劉宝(りゅうほう)が使ってた私房なんだ」
どこか緊張をしたような面持ちで李功が種を明かす。
やっぱりそうか、と胸中で独白する。
無駄の一切を排除したような完璧な室内。
光を取り入れるための飾窓は大きく、壁に彫られた装飾は華美ではないが重厚だ。
落ち着いているが、全体的に暗い。
まだ十代の相手には大凡似つかわしくないとまで言うつもりはなかったが、李功が黒龍拳の最高指導者としての責務を負うに当たって読んでいると聞いた膨大な量の技術書や古文書が見当たらなかったので、それらは別の部屋に収納しているのだろう。
予想通り、先代の総帥だった王きの私室だった場所にまとめて締まってあると説く。
李功があの決別以来、実の兄のことを名前で呼ぶようになったことには早くから気づいていた。
血を分けた兄弟ではあるが一方的にとはいえ縁を切られたのであれば、やはりそれは他人になったということなのだろう。
しかし、黒龍の中では前の最高師範として活躍していた地位と名声が残っている。
李功が兄を名前で表わすようになったのは、歴代の強者の中の一人物として挙げている旨を他者に示すためだろう。
歳の離れた肉親に溺愛されていた弟としての複雑な思いが今もなおその胸の中に存在することを知っているので、それ以上追及する気にはなれないが。
劉宝の数少ない私物が恐らくこの古ぼけた写真なのだろう。
他は処分したかもしれないし、門弟の誰かに下げ渡したのかもしれない。
傍らで黒龍拳の過去の指導者たちの姿を真摯に見つめる親友の横顔をそっと盗み見る。
気が発する光熱によって乾かされたであろう黒髪は均等な長さでその頬に影を落としている。
伏せられることのない強気な眼差しに添えられた長い睫毛が真っ直ぐに伸びている。
意思の強固さを堅持するような整った眉も。
薄くはない唇は血色の好い艶を保ち。
李功、と名前を呼ぶと、柳眉を軽く持ち上げ、一度瞬きをしてからこちらを見た。
前々から言いたいと思っていたんだが、と継ぐ。
頭ごと横を向き、正面から捉えられたことを確認し、自身の感情のままに口元に微笑を浮かべる。
「………おれは、おまえと家族になりたいと思ってたんだ」
馬鹿な話かもしれないが、と自嘲する。
「………………」
驚いた、という風に李功はその澄んだ瞳を丸くしたが、すぐに、そうか、と返事を返した。
見たこともない故郷も、会ったこともない親兄弟にも興味はない。
薄情かもしれないと思うが、血縁者であってもそれらが白華の大道師や自身の成長に関わった者たち以上の重みを感じないことも事実だった。
昔から考えていたのは、おそらく自分はこれからもひとりなのだろうということ。
西派が誇る勁(けい)の良き使い手として、師範として、自らが属する門派やその村人たちから必要とされていることはわかっているのに、それが真実であるのかどうかの実感は、本当の意味での実感は、限りなくゼロに近かった。
今はわずかでも感じることができるようになったが、それでもまだ、これが現実なのかがわからなくなる時がある。
本当に必要だったのは、おのれが欲する愛情というものであって、他人がどれだけ同じものを注いでも、満たされるという心の動きがない。
人が生まれながらに持っている心底に秘めた温かだったはずのものが、疲弊しているのか、凍結しているのか。
何も求めていない、何も期待しないと自覚しているはずなのに、理性が持つ強制力とは別の孤独感をいつもどこかで抱えていた。
その理由を知ったのは、自分と同じように一人で生きて行かなくてはならなくなった相手を見つけた時。
だが、李功自身は自分は一人ではないと言うのだろう。
育った土地には同じ黒龍拳で生活をした仲間がいる。
生まれついての異能であっても、実力や力量を競い合うのとは別のところで彼らの輪の中に受け入れられていたことを知っているからこそ。
あるいは自身ほど頑迷ではなかったからこそ、孤独との認識はないのだろう。
しかし、師も兄も、隆盛を誇ろうとしていた門派の威信さえも奪われ、衰退した黒龍拳と残った門弟たちの行く末という未知で不確定な重責を背負わされた稚い李功を見て、ああ、と感嘆する部分があった。
自分と同じなのだと。
情況は全く異なっているというのに、ただ単純な一念が確かにあった。
他人ほど遠くはなく、身内と呼べるほど近くはない距離で見守り、助言をしようと思い、努めてきたが、いつか思うようになったのはそんな些末なことだった。
李功と家族になりたかったんだ。
李功は拒むこともなく、再び眼前に飾られた数枚の額を見上げた。
その横顔がぽつりと漏らす。
そうだな、と。
昔から誰とも結婚する気はなかったけど。
叶うならば。
「おれもおまえとだったら、家族になっても構わねえよ」
本当は、その肢体を抱え上げて運びたかったのだが。
絶対に地面から足を離さないいつもりの険しい剣幕の李功に根負けをし、仕方なく手を引いて寝所に辿り着いた。
なんでこの場面で意固地になる必要があるのかわけがわからなかったが、相手にも男としてのプライドがあるのだろう。
まさか鍛え上げた筋肉の量に倣って体重が常人よりも重いことを気にしているのではないだろうが、抱き上げて閨に運ぶくらいは大目に見てくれてもよかったのにと、うらみがましく思わないこともない。
けれどそんなところも李功らしい。
男で、拳士で、柔らかな部分などひとつも持ち合わせていない。
門弟たちと比べればたとえ体格的に見劣りしていようとも、若くして大丈夫としての才覚も素質も備えている。
堂々として譲らない気の強い性格も。
こちらが本気で命令をすればその気性すら折ってしまえる唯一の弱点も。
邪気のない心からの笑みも。
全部が真実いとしいと思える。
前髪の生え際から額の竜の文字、米神を伝って耳の輪郭、そのゆるい曲線を。
瞼には一切触れることなく唇で辿る。
瞑目している相手はその動きだけでも敏感に気配を察し、息をかすかに詰めていた。
回りくどい前置きは飛ばして、長椅子の上に押し倒した上体を両腕で挟み込むように囲み、流れる横髪を指で梳きながら淡い愛撫を繰り返す。
普段は外気に剥き出しになった肩は薄手の生地で隠れている。
そこへ布越しに口を押し当て、一度だけぎゅうと体を抱きしめる。
徐々に性急になる欲望の暴走を抑えるためと、李功に心の内を伝えるためだ。
この緩慢で億劫な時間でさえ相手にとっては心身ともに居た堪れない状況なのだろうことをわかっているからこそ、辛抱を強いるために肩口に鼻先を埋めて深呼吸をする。
性交を重ね、互いに次の段取りをわかっているから、焦りたくなる心中も理解できる。
自分は随分と性格が悪いな、と嘲りたくなるのも無理はない。
昔からどうしても李功にだけは、すんなりと目的のものを掴ませる気にはなれないのだ。
結局最後には、いじめるなよ、と。
途切れ途切れの呼吸の合間に、同じ台詞を引き出してしまう。
いじめているつもりはないのだが。
自覚がないからこそ意地が悪いのだという向こうの見解はこの際寝間の外へ置いておく。
灯りのない室内であるにもかかわらず暗闇の中でもその姿を知覚することができる。
できない分は手探りで肌の上に掌を滑らせれば、返る反応と触覚から知らされる形ひとつでそこがどこであったのかを認識できる。
肌蹴させた胸元にいくつかキスを落とし、五指を開いてふくらみを端から支えるようにして人差し指でゆるく持ちあがった突起を撫でる。
一瞬触れただけでびくりと肩が竦み、自身の額の位置にかかる相手の呼吸が深くなった。
最初は舌の先端で。
湿らせる回数が増えて行くにつれて口腔全体で。
皮膚ごとそこを吸い上げると、歯列の隙間からようやく声が聞こえてきた。
何度か短い声音が発されても、離すことなく唾液が李功の上を伝うのも構わず胸への愛撫を続けた。
さすがに限度を超えたのか、肘から下を動かした李功に太い上腕を掴まれ制される。
胸、吸うの、好きだよな。
片言の言語しか操れなくなってしまったかのように、幾分上気した頬で親友は評した。
しかし応答など端から期待していなかっただろうことを見越して、もう片方の手で無防備なままの先端の縁をなぞると、喉を鳴らして身をのけぞらせた。
一度前に触れて李功の望むままに溜まった熱量を解放してやると、ベッドに横臥し、隣で息をつく相手の脇から腕を伸ばしてその肩を抱く。
携えてきた潤滑油の瓶の蓋を片手で難なく開けると、見咎めるように李功の双眸がしかめられた。
用意周到だと思ったらしいが、それがなければ困るのは双方同じだ。
無理矢理繋がっても李功の力があれば行為の最中であろうと傷を癒すこともできただろうが、そこまで獰猛な欲求でもない。
こう言っては心証を害するかもしれないが、面倒な手間というのも目的が明確になっている以上、男にとっての楽しみのひとつになり得る。
器用に片手で指を濡らし掌に適量をこぼすと、冷たい液体を体温で温めてから李功の後ろに押し当てた。
ふくりとした隆起のある腿の間を撫でるようにして軽い力でひっかくと、さらに李功の背が撓る。
執拗に何度も入口の周りを指の腹で撫でつけてから、一番太い指を曲げ、窄まった箇所に潜り込ませた。
本能的な動作で押し返されるところを知った手管で封じ込め、内側の湿った粘膜を慣らすように前後の動きを付け加える。
李功が拒んでいないのは、自然と後ろへ突き出された下肢の動きだけでも充分に知れる。
余談なく鍛えられた上半身と幾分細身の下半身をつなぐ腰骨は同性だから持つ妖しい色気を放っている。
動きに合わせて胸を上下させ、息を継ぐ姿をすぐ横で注視されていることも忘れ、受け入れる指の数と質量を全身を使って確かめていた。
直接的な刺激を与えられるようになってから、確実に李功自身が前戯を楽しんでいることが知れた。
その様子を捉えるとともに密かに口元に笑みを浮かべ、表面に汗を滲ませた李功の体のさらに奥深くを探る。
一旦引き抜いた指を今度は二本揃えて潜らせると、包み込むように腸壁が収縮した。
感想を脳が弾き出す前に自身の肉体がその淫靡さを痛感し、思わず瞼をきつく閉じる。
ここで理性を手放すわけにはいかないのだから、言葉では形容しづらい忍耐を強いられる作業だ。
李功は早々に抑制から解放されているのかもしれないが、自分は、まだ。
足元から火で焙られているかのような焦燥感と大量の血流の凝固を中心に感じながら、膨大な量の勁(けい)の力を操る時と同じように口を開け牙を見せ始めた自身の欲望を制御する。
冷静さを保つことに自信があったわけではないが、李功の後孔をゆっくりと攻めながら、タイミングをずらして水音を断続的に早く立てると、堪らず動かしている腕を掴まれた。
はあ、はあ、と荒い呼吸を繰り返し、透明な液を浮かばせた李功の長い睫毛の下から見つめられる。
互いに限界が近いことを察し、三本目の指を追加すると、腕を回した李功の腰を引き上げ、背後から攻めた。
逃げ場を与えないように下肢を捕えられて、李功が額をシーツに押しつけて嗚咽を堪える。
繋がるよりもあからさまな欲求を体現したような恰好に、多少の羞恥心に火が点いたのだろう。
くびれた腰の下の臀部の丸みの間を攻め続けながら、その光景を真上から見降ろしている自分もそろそろ覚悟を捨てる時機が来ていることを悟る。
温かな箇所から濡れそぼった三指を引き抜き、李功の足を跨いだまま下衣を取り去る。
腰布を引き抜いた時点で相手も気づいていたのだろう。
のろりとした動作で片腕を立て、自力で正面を向いた。
太股の下から脚を抜き、ゆるゆると膝を立てる。
普段であれば、ここで下るのは李功からの来いよ、という、なけなしの余裕を滲ませたような熱の籠った一言だ。
けれど今は口には出さず、一度擦っただけで頭をもたげ始めたこちらの下腹部を見ている。
次いで、見事な起伏の腹筋と分厚い胸筋を辿り、肉付きの良い肩から太い首、顎の上。
真っ黒な瞳を見上げてくる。
趙(しょう)、と。
音にはならない懇願を舌の先に乗せ、鼻から抜けるようなため息をこぼした。
二つの膝頭を掴み、間を開かせる。
西派の拳士は毎日反復する鍛錬によって関節が柔らかい。
女のように開かれ、それよりも奥まったところに先端を押し当てられ、名を呼ぶ声が一旦止んだ。
「………欲しがっていいぞ………?」
同じように深呼吸を繰り返しながら、その合間に問いかける。
いつもみたいに、横柄な口調で誘えばいい。
親切に促したのだが、それが李功の気に入らない意地の悪い行動だったらしい。
低く、交尾狂いの情婦じゃねえんだぞ、と悪態をつかれる。
だが、この雰囲気では少しも挑発しているようには聞こえない。
李功の下の口に宛てたまま、鼓動に合わせて脈打つそれを肌に直接伝えていると、堪りかねたように膝に乗せた手の甲に温もりを重ねられた。
なあ、と。
猫なで声とは言い難いが、寄せられた眉間が切なげで、影になった眸が黒い縁の奥で揺れる。
―――――なよ。
そんなつもりはないんだが。
それを証明するために、李功の視線を捉えてにこりと目だけで微笑んだ。
風呂の用意がしてある、と口早に李功は返答を待たずに説明を始めた。
今は門弟たちが使っているが、自分は一番最後に入るから先に済ませてしまっていいぞ、と。
そう話している間も李功はこちらを見ることなく、落ち着きなく、言葉の合間に唇を噛み締めていた。
「……いや、おれも最後でいい」
やっとのことで出たのは、よくよく考えてみれば意味深な発言だったのかもしれない。
李功が他の拳士と一緒に入浴を行わないのは、体質的な問題が先に立っている。
恐らくその見解が外れてはいないだろうことは、自身もそれに倣うような形だったからだ。
生まれつき常人の倍はあろうかという強力な気を持つ特異体質であるがゆえに、封印を施していない状態で人と交わることは規模の差こそあれ非常に危険な行為だからだ。
西派の拳法家として仮に強靭な肉体を誇っていたとしても、李功ほど恵まれた、ある種の荒ぶる能力を持っていると、必然的に自らが望むと望むまいと強烈な磁場を持つことに繋がった。
生来身にまとっている者には影響は少ないが、一般人には肉体的な悪影響を及ぼすほどの。
西派以外の勁(けい)を用いる門派でも具体的に解明されていることだが、磁力そのものは生身の人間であれば誰しもその大きさの大小にかかわらず持っているが、限度を超えている自分たちにとっては他人との直接的な接触は回避すべきことだった。
でなければ、普段の生活で封印の札をわざわざ仕込む必要はない。
もっと面白い例を挙げれば、目の前の親友などは札を縫いつけた衣服を身にまとっていてさえ、機械の類とは極端に相性が悪いらしい。
要するに、微力な電磁波を持つ機材を狂わせる何か――
詰まる所、強烈な磁界を持っているがゆえに簡単にそれらの機能を誤作動させた挙句停止させてしまうのだ。
だから、という理由は今更相手に語るべき事柄ではなく。
「……………………」
李功に無言で睨まれているのは気のせいではないだろう。
「……おかしなこと、考えてるんじゃねえよな…?……」
一緒に汗を流すことになるというだけで他にどんなことを考えるというのかと問い返しそうになったが、確かにほんの少しだけ、いや、大分想像していたかもしれない。
だとしても、ここでそれを認められるほど厚顔無恥に生まれついたわけではない。
「………………………考えてない、ぞ」
「……即答しろよ」
「…………………」
おまえの方こそ何か良からぬものを連想しているんじゃないのかと問い質したかったが、互いに頬を赤らめているのであれば両成敗といったところだろう。
それにしても、と思う。
宿泊を許可したということは、李功の私室に入れるということだろうか。
勿論、通常であれば黒龍の村の宿屋か宿舎で休むのだと考えるのが妥当だ。
だが、李功とは昔一度だけ同衾をしたことがある。
当時は密かな好意を自覚していなかったとは言い難い関係だったが、部屋の様子を眺める暇すらなく眠りに就いてしまった気がする。
年齢が年齢だったので惜しかったと言うつもりなど毛頭ないが、今のこの状況とは全くと言っていいほど違っていただろう。
おかしなことだと思うのであれば、すぐさま断ってしまえばいい。
断ってしまえば。
それができれば、そもそも李功に手を伸ばしたりなどしなかった。
海綿で軽く全身を撫でるように洗った後、それをこちらへ向けて放ると李功はさっさと湯船の中に浸かった。
まるで烏の行水だな、と思ったのはその行動があまりに迅速だったからだ。
時間をかけ、くまなく体の隅々まで洗浄しようとする自身の行動とは真っ向から異なる。
しっかり洗えよ、と苦言を呈すと、何かが気に食わなかったのか湯気の向こうで相手は眉をしかめたようだ。
「――とおんなじこと言うなよなー」
すねたような口調が耳に届いた。
誰に例えられたのかと疑問に思ったが、意図しなくてもその中身というのは大様に知れた。
あれ以来、李功の口から語られることのなくなったその実兄なのだろうな、と大体の見当をつけたのは、視界を幾重もの蒸気で阻まれながらも心の内が伝わって来たからだ。
元来、勁(けい)の扱いに秀でていた自分には、白華拳の現在の大道師と同様に人の心を読む術に長けている。
実際に思考している内容そのものを読み取ることが叶うのではなく、考えていることの輪郭を悟れるくらいの単純なものだ。
しかし幼少の頃から酷く勘が働くというか、邪念の気配というものに鋭敏だったため、その延長線上として読心の術へと進化したのだろうと考えられなくもない。
元々数々の精神的な修養によって徳というものを積むと、そういったものに敏感になってしまう事例はいくらでもある。
白華で名を馳せた師範や、歴史上の偉人などは例に漏れずその力の片鱗を垣間見せていた。
徳や功徳と言ったものは他人から与えられるものではない。
だからこそ極稀にその力を使うことのできる者が生まれたり、出現したりするのだが、多分これも生来の素質の一つだろうと考えられなくもない。
かといって、おのれなどが過去に偉業を成し遂げた人物と同等に列せられるべき才能を持っているとは微塵も思わないが。
受け取った海綿で丁寧に、だが素早く頭の天辺から爪先までを洗い終えると、倣うように湯船に足を踏み入れる。
ざぶ、と大きく湯が揺れ、水位の上昇とともに湯船から溢れた水が床に広がった。
それをさも楽しそうに眺めていた李功が、両腕を持ち上げ、指を後頭部で組みながら声をかけてきた。
「なんか、おかしな感じだよな」
「…………」
自身も相手から離れた場所で片腕を縁に伸ばし、体から力を抜いて寛いだ。
密室ゆえに声がわずかに籠り、反響する。
視界が利かないはずの空間でなぜか、李功の黒髪を濡らしている水の粒が、その肌や水面に滴る動きの一つすらまるでスローモーションのように捉えられる。
李功の鍛えられているがふっくらと膨らんだ形の好い胸の間と、熱を帯びて桜色になった表面を流れて行く湯とも汗ともつかない流れの一筋一筋すら、鮮明に見えているかのようだ。
そっと、気取られぬよう緩慢な動作で、唾を飲み込む。
意識しないように努めようとするから余計に動揺してしまうのであれば、横柄な態度ですべてを受け止めてしまえばいい。
かなり危険な賭けだと思ったが、それは向こうも同じだったのだろう。
どちらが先に根を上げるのかと思われたが、尋常ではないスタミナを持つ李功との長期戦となれば白旗を上げざるを得ない。
立ち上がれば、湯面がさらに揺れた。
水嵩は膝上くらいしかなかったが、滝のように大量の湯水が肩から流れ落ちた。
「もう上がんのか?」
ゆっくり浸かればいいだろー、と暢気な、そして余裕の滲んだ声が飛ぶ。
明るい場所で相手に対し自らの裸を晒したことはなかった。
引き締まっているが厚みのある腹筋も、その下の太い下半身も。
人並み以上に恵まれた筋骨を覆う素肌は日に焼け、健康的な色艶を保っている。
体格や外見のこうした質を向こうが羨んでいる事実を承知の上で見せつけるように灯りの下に立った。
「……いや、」
そうじゃない、と続け、大きく湯を割る。
前を進むたびに高い波を起こしながら一歩一歩近づいて行くと、李功は言葉を失ったようにこちらを見上げてきた。
「…………よせって……」
何を拒むつもりだったのかは知らないが、居心地の悪さを表わすように上気する面に怪訝な色を履く。
顎を引き、李功は押し黙った。
頭の後ろに持ち上げていた両手はすでに下ろされ、所在なげに水中を漂っていた。
「…なあ、李功」
甘えるような口調とは程遠い、上からものを言う調子だったが、それが殊更相手の羞恥心を煽ることなら学習済みだ。
「これから、どうしたいんだ……?」
李功の前でさらに緩慢な動作でしゃがみ、長い腕で挟むようにその背後の縁を掌で掴む。
至近距離と呼べるほどではなかったが、視界を阻む白い靄のようなものはほとんど見えなくなった。
滅多にない情況だからこそ視覚から得る刺激は、いつも以上に手強い。
けれど、それはお互い様だ。
「………どうって、……何のことだよ……」
片膝を立て、もう片方を倒した恰好のまま、李功は切れのある双眸を細めた。
帰って来る返事は歯切れの悪いものだった。
「おれを、今晩、おまえの部屋に泊めてくれると解釈していいのか……?」
「…………………」
機嫌を損ねたように、再び口を閉ざす。
やがてぽつりと漏らしたのは、そのつもりだったが、やっぱりやめにする、だった。
これにはさすがに苦笑を漏らさざるを得なかった。
期待していなかったわけではなかったので、落胆をした、というのが正直なところだ。
強引に物事を推し進めるのは性分ではなかったので、だったらいいんだ、と瞑目して引き下がろうとした瞬間。
首裏をぐいと掴まれた。
頭部ごと傾き、力を込めていなかった両肘が撓る。
李功の唇が一層近づいた。
すぐに解放されるかと思ったが、正面の貌には思案の色が浮かんでいる。
次いで間髪を入れず、らしくもない撤回の言葉が発された。
「…やめにするってのを、やっぱり、やめにする」
「……………。……泊めてくれるってことか……?」
あー、と間延びした肯定が返る。
頬が真っ赤に染まっているのはきっと李功だけではないのだろう。
「……けど、ここでこれ以上のことをするのはよそうぜ…」
門弟たちも使う公の場だからな、と、至極当然の理由をぶっきらぼうに口にする。
李功の言い分に納得したので離れようと思ったが、やはりというか懸念していた通り、首の後ろから手が放されることはなかった。
「………李功」
このままだと、おまえが歓迎しない事態に陥るぞ、と。
忠告するまでもなく、相手もそれを熟知しているのだろう。
毎日使うような浴場で触れ合えば、ここを使用するたびに今日のことがフラッシュバックするだろう。
「……………っ」
初めて聞くような李功のごくりと生唾を飲み込む音を辛うじて鼓膜が拾うと、覚悟を決め残った自制心を総動員して立ち上がった。
肝心の中心が反応を示す前に自力でけりをつける。
脱衣所を目指して背を向ける直前、項垂れた相手が片手で目頭を押さえた姿を知覚する。
もしかしたら。
否、まさか。
極力思考しないように努力したが、眩暈を感じるよりも先に目的地に着くことだけに集中する。
あんなに困った顔で額はおろか、耳朶まで紅潮させている李功はこの四年間、情事の最中以外では見たことがなかった。
(辛抱堪らん二人)